もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「……もう大丈夫だ」
「はい。この魔物は、肉は食べられるんですか?」
「少ないが、干し肉にして食べられているな」
「じゃあ、小さいけど練習に毛皮もきれいに解体してみますね」

 ヴィクトルさんの声に浮かせていた水球を地面に下し、張っていた結界を解くと血に染まった水が地面に流れ、その場に魔物だけが残る。途端に立ち込める血の匂いに一瞬ひるみそうになる。

 それをぐっと堪え、血の匂いに他の魔物が寄って来ないように、魔物と自分、それにヴィクトルさんを包み込む風の結界を張った。

 解体用のナイフは、私の小さな手でも使いやすいように、カミラちゃんのお父さんに作って貰った物だ。このナイフを一番最初に手にする時は、なかなか手を伸ばすことが出来なかった。

「よし」

 ふう、と深呼吸してから血抜きをする為にそっとナイフを心臓の上辺りに突き立てた。
 初めての時は、止めを刺すのにも泣きそうになり、血抜きをする為にナイフを刺して吐いて倒れてしまった。
 慌てたヴィクトルさんに、全部俺がやるから魔物を狩ったり解体しなくてもいい。と言われたが、それでも自分でやると押し通し、それからも何度も吐いたがやっと最近吐かなくなって来たのだ。

 ……ゲームのように、死んだら素材だけ残るんだったら良かったけどね。ここは現実なんだし、そんなことないと分かってはいるんだけど。

 ここからはただ奪った命の責任を果たす為に、しっかりとヴィクトルさんに教わったことに注意しながら無心で解体していった。



 なんとか解体を全て終えると、ヴィクトルさんを見る。

「……手順は大丈夫だった。小さいから皮に肉が残ってしまっているが、一応売り物にはなるだろう」
「はい!じゃあ、すいませんがお願いします」

 分かった、と言うと私が解体した魔物をヴィクトルさんが袋に詰めて背負い袋へ入れた。
 私が倒した魔物は、まとめてヴィクトルさんに売って貰っている。小銭にしかならないが、命を狩ったからには無駄にはできないからだ。

 まあ、それでもまだ肉を食べられないんだけどね……。

 一度だけ兎のような魔物を狩った時、肉を持ち帰って葛藤の末に食べようとしたことがある。でも、一口口に入れただけで吐きそうになってしまったのだ。
 それは私がへたれだったから、というだけでなく、私の解体が未熟すぎて血抜きが上手く行っておらず、肉が臭くて食べられなかったのだ。

 ヴィクトルさんが見本に倒して解体した肉を貰って帰ると食べられたから、どう考えても私の手際が悪いからなのだが、その手際が良くなる為には何度も訓練しなくちゃならないという矛盾……。
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