もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「今日はどうする?まだやるか?」
「……いえ、この後は気配を殺します。それでも襲撃された時は、私に倒せるような魔物はやってみますが、ダメそうな時はお願いします」
「分かった。……なあ、そんなに無理しなくても……いや、いい。では、行くか」

 ポンと頭に乗せられた手に、久しぶりに遥か高い位置にある顔を見上げた。
 逆光の中見た表情は、情けなさそうに眉が下げられ、それでも私がそのまま傍にいるのがうれしいのか口元が微笑んでいた。

 番って、何なのだろうね。小説で見たように、出会った瞬間から目を離せなくなる、魅了されたような状態にはなってないと思うのに。

 じっと見つめていると、ポンポンと頭に乗せられていた手が今度はなでなでと撫でて来た。

 ……撫でられるの、実は嫌いじゃないんだよね。耳を触られるとくすぐったくてちょっと嫌なんだけど。でも頭をそっと撫でられるのは……。あっ!!

 ついぼうっとそんなことを考えていたら、胸元のセフィーの枝が震えていた。

 おおっと、ヤバイ。いや、別に流されそうになはなっていないけどね!

「じゃあ、結界を解きますから。行きましょうか」
「あ、ああ。では、行こうか」

 そっと枝を撫でると、血の跡に浄化を掛けてから風の結界を解いた。その後は今度は気配を消して風を纏ってトンッと空へと踏み出す。
 そうしてヴィクトルさんを振り返ることなく、私は結界を目指して駆けだしたのだった。



 結界の前で別れてセフィーの元へ挨拶によると、不機嫌そうなセフィーが「おかえり」と言ってくれた。

「もう、ルリィは。あんまり甘いところを見せてはダメでしょう。つけ上がったったどうするんですか!」
『ふふふ。そうだね、セフィー。ちゃんと分かっているよ。私はヴィクトルさんに別に恋愛感情はないけど、こんな子供に付き添って、ヴィクトルさんは楽しいのかなっていつも不思議なんだよね』

 そう、そこがいつも不思議で仕方ないのだ。
 だっていつも結界と街の往復。街ではおばあさんの家で調合して、たまにアイリちゃんとかと会ったり買い物したりしているだけだしね。

「そうですね。一見するとただの小さな少女に付きまとっている変態男ですからね!」

 フン!と鼻息荒く言い切るセフィーに笑ってしまった。
 それは私もいつも思っているんだけど、口に出すのはさすがに悪いと思うのだ。世話になっているのは確かなんだし。

 まあ、こうしていても番の感覚がない私には何も分かる訳でもない。

『じゃあ、セフィー。また明日ね!今日も疲れたから、お風呂入って寝るね』
「はい。ゆっくりと休んで下さい。ああ、そろそろ森に薬草が生えて来ていますよ」
『わあ!じゃあ、明日は森へ行って採取して来なきゃ!ありがとう、セフィー!おやすみなさい!』

 そろそろ風邪が流行る季節になるから、熱さましや咳止めの薬草はいくらあってもうれしいのだ。
 明日からの森へと思いを馳せ、足取り軽く家へと向かったのだった。
< 87 / 124 >

この作品をシェア

pagetop