もふもふになっちゃった私ののんびり生活
「ねえ、おばあさん。昨日の収穫祭で、咳をしている人をたくさん見かけたの。咳をしているだけで具合が悪そうには見えなかったんだけど……」

 昨日はアイリちゃんの咳に気づくと、街中でも咳をしている人が目に入り、せっかくの友達との収穫祭だというのに見世物を見ている時も気もそぞろになってしまった。
 ちなみに見世物は、魔獣だった。

 魔獣って見世物になっちゃうのっ!と驚いたら、ヴィクトルさんに彼等は人化できない種族で、契約を結んで芸を見せていると言われた。
 言葉は通じるので芸も言われた通りにすればいいだけだし、荷運びやたまの芸でお腹いっぱい食べられるし嫁も探してくれるしで、生活の不満はないらしい。

 それも本人の選択だ、と言われると、そうなのか、と納得した。ようは見世物屋に就職したようなものなのだろう。魔獣も人それぞれだ。

「そうかい。今年はじゃあ、木枯らし病が流行るかもしれないね……」
「木枯らし病……。えっと、確か咳が出て、ひどくなると血を吐く病気、でしたか?」

 調合に関する本を読んだ時に、病気に関する本も読み込んだので記憶に残っていた。

「そうだよ。咳がひどくなると喉から木枯らしのような音がするんだ。そして体力が落ちると、血を吐いたり一気に高熱を出してそのまま死んでしまう場合もある、怖い病気さ。最近一気に冷え込んできたが雨が全く降らないだろう?そういう年は、たまに流行るんだよ」

 そう言われると、ここ一か月以上雨が降っていなかった。それに喉から木枯らしのような音っていうと、喘息を連想するが高熱が出るなら違うのだろう。

 木枯らし病……。アイリちゃんの咳、木枯らし病じゃないよね?

「……確か木枯らし病には、薬がありましたよね?」
「ああ。初期なら咳止めでいいが、ひどくなったらマギラ草を使った特効薬を飲まないと治らないね。今手持ちの薬草で用意できるのは、咳止めだね。ルリィにも教えるから、今日から一緒に咳止めの調合だよ。効果が弱くても、子供には十分だからね」
「はい!頑張ります!」

 収穫祭の次の日は街を出る行商人でごった返すと聞いていたから、今回は収穫祭に合わせていつもの二泊ではなく、四日泊まる予定だ。その分次は五日家に戻るつもりだったけど……。

「おばあさん。マギラ草って、確か水辺に自生する薬草だったよね?あと必要な薬草は、何があるの?」
「あと必要なのは、ゴゴの根とローブル草だね」
「ゴゴの根とローブル草……」

 ゴゴは確か葛のような蔓性の植物だった筈だ。私の家の周囲では見かけないけど、街との往復の間に森で見かけた気がする。
 ローブル草は逆に草原にある薬草だ。森の中の、私の家の周囲のような開けた場所に生えている方が、効能が上だった筈。

「次に街に来る五日の間に、採取できるだけ採ってきますから、それぞれの処理の仕方を教えて下さい」
「全く、ルリィは人がいいね。でも、無理をするんじゃないよ?今はローブル草以外は在庫はないから、似た処理の薬草で説明するよ。じゃあ、今日から忙しいから、しっかりね!」
「はい!!」

< 89 / 124 >

この作品をシェア

pagetop