もふもふになっちゃった私ののんびり生活

「おはようございます、ヴィクトルさん!今日も宜しくお願いします!おばあさん、何か言っていましたか」

 翌朝、待ち合わせ場所に行くと、いつものようにもうヴィクトルさんは待っていた。

「ああ、おはよう、ルリィ。今日も宜しく頼む。薬草の状態はいいと言っていたから、心配いらないだろう。買い取り金額は計算しておく、だそうだ」

 ああ、良かった。ゴゴの根は初めて採ったから、心配していたんだよね。そういえば買い取りになるんだった。私は考えてなかったけど、ヴィクトルさんにはしっかり渡さないと、だね。

「ありがとうございます!では、今日もゴゴの根と、それからマギラ草を採りに森の奥の水辺へ行きたいんですが大丈夫ですか?あの、結界へも湖の辺りまでは殺意と害意が無ければ入れるようにして貰ったので」

 街からこの結界の間までは昨日採ったので、今日は結界に沿って更に奥へ進む予定なのだ。

「……あ、ああ、わかった。奥へ行くのは問題ない。……俺も入れる、のか?」

 昨日の今日で結界を入れるようになった、なんて言われても、どういうことなんだ!ってそりゃあ思うよね。でも、どう説明したらいいか、とか悩んでる時間は今はないから押し通そう。

「はい。精霊樹の近辺までは無理ですが、入れる筈ですよ」

 セフィーには朝挨拶に寄った時に、私が着く頃には緩和しておくと言われたから、もう大丈夫だと思うんだけど。

 するとヴィクトルさんが、そろそろと腕を伸ばし、結界に触れた。

 パチンッ!

「っ!……入れないようだが?」
「ええっ!!あ、朝方って言ってたから、まだだったのかもしれないです。……だ、大丈夫、だよね?セフィー」

 思わず胸元の枝に話し掛けると、あ、今終わりました、という素気ない返事が届いた。

 ……セフィー。もしかしなくてもわざと、だよね?本当にセフィーったらヴィクトルさんに厳しいんだから。思わずヴィクトルさんが肉食獣だからダメなのかと思っちゃったよ。

「あの、もう、入れる、とは思います」

 そう恐る恐る顔を上げて伝えると、無言でまたそっと腕を伸ばして結界に触れた。今度はそのまま何もないかのようにスッと結界内に手が入る。

「あ、ああ。入れるようだ」
「ただ、魔物は変わらずに入れないので、中では狩りには向きませんから、そこは注意して下さいね」
「わかった。じゃあ、今日はもっと奥へ行くなら、急いだ方がいいだろう。俺が獣化するから、俺に乗って移動しないか?」

 え、ええっ!!わ、私が、ヴィクトルさんに乗るの?

 思わず目を見開いて静止し、頭の中で一度だけ見たヴィクトルさんのもふもふな姿を思い描いた。

「の、乗って、いいんですか?あ、でも、掴まっていられるかわからないですし」

 つい頭の中では、ヴィクトルさんの上でもふもふに埋もれて「もふもふやー!」とわさわさと撫でまわしていたが、いや、それただの痴女だから!となんとか自制する。
 それに胸元の枝が、さっきから激しく振動しているし。うん、わかっているよ、セフィー。でも、邪な気持ちが無かったら、いいんじゃない?

「そこは結界で囲ってくれたらいい。ちょっと待っていてくれ。獣化して来るから」

 私のどっちつかずな返事に、ヴィクトルさんがさっさと木の陰に歩き去って行ってしまった。

 セフィー!こ、今回は非常事態だから!乗り物。そう、乗り物になってくれるのよ!!

 怒った気配を発する枝を握りしめて色々と言い訳を思いながら、心は久しぶりのもふもふへと飛んでいたのだった。

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