もふもふになっちゃった私ののんびり生活
『さあ、乗ってくれ。跨ったら鬣をしっかり握って、結界を張って落ちないようにしてくれ』
ドキドキしながら待っていると、すぐに大きな獣姿でヴィクトルさんがのっそりと木の間から現れた。
良く見てみると、長い尻尾の根元に人の姿の時に背負っていた大きなカバンが下げられている。
もしかして一度尻尾を出して、そこに引っ掛けてから獣姿に変化しているのかな?うわぁ。そう考えるとちょっとかわいいかも!
「騙されてはいけませんよ!気をしっかり持つんですルリィ!」とかセフィーが言っている気がしたが、それよりもヴィクトルさんのもふもふ姿に夢中だった。
改めて見てみると、金の鬣は結構長く、私が座ったら埋もれそうだし、尻尾なんて両手で抱きかかえても手が回らないかもしれない。
何も言わずにじーーっと嘗め回すように見つめている私に、ヴィクトルさんは促すように寝そべったまま手を差し出した。
『手に乗ってくれ。上へと上げるから』
な、なんですとっ!!もしかして肉球の上に乗れ、とっ!!
ふぉおおっ!!と興奮しながら柔らかそうな金色のもふもふの胸元の毛を横目に近づき、予想した通りの特大肉球を目の前にして止まった。
黒々として堅そうなのに、ぷにっと膨らんでいる肉球に目が釘付けだ。
『……落とさないからそのまま乗って大丈夫だぞ?』
「あっ!じゃあ、乗らせていただきますっ!!」
うっはー!夢にまで見た肉球だーーっ!
鋭く尖った爪を迂回し、私の太ももの高さまである手にそっと乗り、しゃがんでしっかりと肉球に手の平をつけた。そのまま無意識に手がぷにぷにと動く。
おおっ!表面はゴツゴツだけど、内側のぷにぷにとした感触はしっかりとっ!こ、これはかかとやすりとか掛けたら、かなりいい感じになるのでは?
ふむふむ、ムムム、と夢中で肉球をぷにぷにしていたら、いつの間にか困ったような目をしたヴィクトルさんの大きな顔が目の前に。
「ハッ!つい、肉球に心を奪われてっ!しっかり鬣に掴まりますねっ!」
『あ、ああ。じゃあ、首の後ろのくぼみにまたがって結界を張ったらしっかり掴まってくれ』
そっと頭の横まで手を上げられたので、立ち上がり毛皮を掴んで首へと移動して跨った。そして言われた通りに遠慮なくしっかりと鬣を掴み、自分の身体の周りに結界を張る。
「ええと、ここから斜め左前方へお願いします!」
『わかった。じゃあ、行くぞ』
一歩目を踏み出した、と思ったら気づくとあっという間に結界から遠ざかっていた。
体感的に新幹線から外を見ているような感じだ。重圧も結界に阻まれてかからないが、結界が無かったら一瞬で吹っ飛んでいただろう。
は、速いっ!私が懸命に駆けても、ヴィクトルさんが何てことない顔でついて来る訳だよね……。
ついあまりの速さに、毛並みのもふもふさに気を取られる間もなくすぐに一か所目のゴゴの群生地へ到着した。
そのままあっという間の移動を繰り返し、午前中の内に六ケ所の群生地を周ることができ、移動するヴィクトルさんの尻尾には袋が一つ増えることになった。