やさしいキスをして
    ーー午後6:51




ーーあーーーーっ…疲れた。
   どうにか間に合った?



 エリとは7時に約束していたから、急いで机の上を整頓(せいとん)して、私物をバッグに入れ帰ろうとしたところで毎度のごとく、女狐がわたしの名前を大袈裟(おおげさ)に叫ぶ。


「ちょっとちょっと!内田さん!ごめーん。ちょっと来てくれる?」


ーーーーその気もないくせに
その()びを売るような口調(くちょう)は何?


ーーーーマジ、いらつく!




それでも笑顔で
「はい、何ですか?ちょっとこれからエリとこれなんで、手短にお願いできますか?」


と少々、下手(したて)に出ても結局は同じこと。


「あのね…悪いんだけど今夜中にさ、再来月号の温泉企画のページのラフ案見開き8pお願いできる?」

「でも…来月号の校了(こうりょう)上げたばっかなんで…今日くらいは…」

「ダーーメーーー!明日編集長会議あんだから、かっこつかないでしょ?飲み会はまたにして、今夜中に必ずあげといてね!それじゃ、よろしく!」

と言ってわたしの肩をポンっと叩く。


    ーーあーーーっ、
    イラつく!触るな!


「それじゃ帰るとするかな、みんなお疲れ!」


   ーー明日の編集長会議?

   ーーそれならもっと前もって
     言えって!マジ、ありえん!

   ーー当てつけのように
     前日の断れない時間になって仕事を振る女。

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