【完】イミテーション・シンデレラ
焦る私の頭を数回優しく撫でて、類くんはやっぱり不敵な笑みを浮かべる。
「俺の中に閉まっておきたい大切な事だから」 両手を胸の部分に持っていき、少しだけ照れくさい表情を作って含みのある言い方をして。
私ってば、一体何を言っちゃったの?! もう絶対お酒は止めよう。飲んでも飲まれるなは名言だわ…。最近はお酒に飲まれっぱなしだ。
そもそも、記憶を失くすまで飲まなければ、昴とあんな関係にならずに済んだ。
類くんとだって、ネット記事に載るような事は無かった。
午後からウェディングショーは開園する予定だった。
午前中から、スタッフや出演者達がバタバタと動き回る。 メイクルームでヘアメイクをしていると、西園寺愛歌とばったりと会ってしまった。
しかも隣同士だ。 話した事は一度もない。スーパースターオーラが出ていて、とても近寄りがたいタイプだ。
メイクさんに長く艶やかな髪を梳いてもらいながら、彼女は口を開いた。
「大変ねぇー…」
ふわりとした高音のソプラノボイスは美しく、話しているのにまるで歌っている様な人だ。
自分に話しかけているとは、暫く気が付かなかった。