箱庭の夢が醒めるまで
ピーチュル、と遠くでヒバリの鳴く声が風に乗ってやってくる。
今日は酷く穏やかな天気で。
あと4分もすれば世界が滅びるなんて実は嘘なんじゃないかと思わせる、そんな陽気だった。
「————今日は、外が随分と静かだね。車も走ってないみたいだ」
「……そうね。この暖かさだから、みんな家でくつろいでいるんじゃないかな」
ハルは「暖かいと眠くなるよね」とゆったりと窓に視線を向けつつ、手にしていたカップをソーサーに置く。
先程わたしが並々についだミルクティーは、1/4ほど減っていた。
周りは住宅街なので普段であれば学校から帰宅する小学生の楽しげな声が聞こえてきたり、車が通る音などの生活音が聞こえてきてそれなりににぎやかだ。
けれど、現在はそういったものは全くなく、鳥のさえずりだけが取り残されていた。
世界の終焉まであと数分。
人々はすべての営みを完全に放棄し、やがてやってくるその時を、なすすべもなく静かに耐えているのだろう。
「あ、今、聞いた?ウグイスが鳴いたよ」
「もう春だからね」
わかりやすく春を告げるその鳥が、ハルはいっとう好きなようで。
わくわくとした様子でこちらを振り返ってくる彼に、わたしは苦笑をもらした。
———そう。だからね、ハル。
この期に及んでこんなふうに呑気にお茶しているのなんて、きっとわたし達くらいなんだよ。