はじまりはステレオタイプの告白
最寄駅でもないのにどうしたんだろう?
行き先を会社に変更しないということは、忘れものではないみたいだけど…
「用事でもあった?」
精算してタクシーを下りたあとで聞いてみると、私の瞳から逃れて、なんだか深刻そうな顔。
「…いや、ちょっと」
ちょっとって顔、全くしてないじゃない。
思えばお昼に休憩室で会った時から、ずっと昴は余所余所しい。
心配が不満に変わりかけた頃、昴が足を止めて。
「…え?花屋?」
目的地を確認した私をみると、眉毛を下げて困ったような顔をした。
「少しだけ、ここで待っててほしい。
すぐに終わるから」
何を理由にかまでは分からないけれど、あたたかい気持ちがそうさせていないことだけは分かった。
どうして、彼女なのに大体の理由すら検討がつかないんだろう。
朝一緒に家を出た時にはいつもの昴だったはずなのに。その時には大丈夫だったはずなんて、そんな自信もない。
Aを聞いたらBと返ってくる。それくらいには、昴のことを解っていたつもりだったのに。
情けなくて、カバンをギュッと握った。
下を向いていた私に、昴が履く革靴の音がして顔をあげる。
「…っ?!」
みると、178cmくらいだといっていた昴が持っていてもこぼれ落ちそうなほど、大きな花束。
真っ赤な薔薇が、堂々とこちらを向いている。
「明日で、同棲して1年だろ。
だから…今日の夜に渡そうと思って」