はじまりはステレオタイプの告白




「え…」

明日だっけ?


昴の言葉に、手元のiPhoneで随分前にチェックしなくなっていたスケジュールシェアアプリを確認すると、確かに同じことを伝えていた。


明日で、同棲1年。

夏ということは覚えていたけれど、具体的な日付までは意識してなかった。


「忘れるなよ」


昴の方が、そういう細かいことはきっちり把握していて。さすが経理だなんて、いつもの私達だったら突っ込んでいたけど。


目線をあげた先の昴に、言葉が続かない。

私が日付を忘れていたことで、なにかを諦めかけているような、そんな顔。

堂々と咲き誇る薔薇には似合わない昴の顔に、唇を噛んだ。



「…なんで?」


「え?」


アスファルトに落とした声に、困惑した昴の声が返ってくる。


「なんで、そんな情けない顔してるのよ。
プロポーズしてくれるんじゃないの?」


同棲をはじめて1年を迎える明日のために、100本くらいはありそうな薔薇の花束を用意してくれていた。

定番がすきな昴が考えることだから。
それはたぶん、そういうことだ。



なのに。なんで…?



うれしいのに、哀しい。

どちらも予想していなかった感情で、自分の感情の整理がつけられずに視界が滲む。


効かなくなったブレーキに、こぼれてしまう涙。

それをみて、驚いた顔をした昴が、手を伸ばして私を引き寄せた。



真紅の花びらが数枚だけ、ひらりと道路に落ちる。



「…円を、泣かせたい訳じゃない」


大きな手が私の頭を撫でたあと、切なそうに涙を拭ってくれる。

その手がふるえているから、私はさらに顔を歪ませた。



「…最寄りまでは一駅だから、ゆっくり歩いて帰ろうか」


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