没落人生から脱出します!

「君が生まれて、男爵は会いに行こうとしたそうだ。でも奥方が止めた。君が五体満足で生まれてきたことを知っているからね。これ以上、男爵が君たちを構えば、自分の心は死んでしまう。君が大人になるまで、生活に関してはしっかり保証する。けれどそれは自分の手でやるから、どうか親子とは手を切ってくれと、願い出たそうだよ。……夫人は夫人で、必死だったろうし、君たちのためにできる最大限の保証はしてきたはずだ。君の母上もそれを分かっているから、もう男爵と会わないという約束を了承したのだろう。……まあ、君は一番の被害者ではあるね。結果として父親と引き離され、なんの事情も知らされなかったんだから」
「私は……」
「君の母上はね、男爵のことも奥方のことも憎んではいない。僕を彼らに紹介したのは彼女なんだ。救えるならば救ってほしいと言ってね。フレディ君自身も成長し、魔力は以前よりは生成されるようになっている。それに僕の魔道具をつけて、起き上がれるようになったのが二年前かな。なかなか体に合わなくてね。少しずつ歩く訓練をさせて、体力をつけるように言ったんだ。護衛付きでひとりで動き回れるようになったのはほんの半年前くらいだよ」

 口で言えばひと言だが、なかなか良くならない息子を見つめる母親の気持ちを思えばとてつもなく長い時間だろう。

「フレディ君も屋敷に閉じこもっていたから、あまり時間の感覚がない。精神的には、まだ子供のようなものだし、親に言われた年齢が本当の年齢だと信じているんだろう。周りにも本人にも、ずっと病弱で、今は体力をつけるために運動させているっていう感じで伝えているのだろうね。だから護衛は魔道具が彼の体に危険なものだとは知らなかったんだろうし、フレディ君自身も、分かっていないんだろう」
「そう、なんですか」

 その事実を踏まえれば、納得できる点がいくつもあった。フレディはその見た目よりも言動が幼い。実際に起きている時間で考えれば子供の年齢しか生きていないのだろう。
 無邪気で幸せそうに見えていた彼が、急にいびつな存在に見えてくる。
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