没落人生から脱出します!
「……知らない人間には、魔道具はただの便利な道具に過ぎない。だが本当は危険もある。それを知ったうえで魔道具に頼らなければいけない人間もいる。……リーディエ、君の母上が僕のところで君を働かせたのは、きっと魔道具に対して知識を持ってほしかったからじゃないかな」
ブレイクの言葉にリーディエは顔を上げる。
「君の母上は、いつか君に事情を説明するつもりだったのだろうと思う。そのときに、君が正しく彼らの不幸を理解してくれるようにと願って、この仕事を紹介したのではないかな」
そうかもしれない、とリーディエは思う。多くを語るタイプではないが、リーディエの母は思慮深い。リーディエが理解できる年になるまで、根気強く待ちながらも、そのための下地を作らせようとしたのかもしれない。
けれど、釈然としない思いもある。
「理解……しなきゃいけないんでしょうか」
そんな事情を聞いてしまってから、彼らを責めることなどできない。
最も悪いのはバンクス男爵だ。どれほど心が疲弊しようと、妻がいるならばほかの女に手を出すべきではないのだ。
けれど、妻が精神を病み支え続けていく中で、誰かに甘えたいと願う気持ちは、理解できる。
そんな体に生まれてきてしまったフレディのことはもちろん、苦しみながらも、リーディエ親子を支援すると言ったフレディの母親も、悪い人じゃないというのは痛いほど伝わってくる。
「誰も責められないのはわかってます。でも……」
だが、それとリーディエが感じてきた寂しさは別物だ。真実がどうであれ、寂しかった子供の頃のリーディエが居なくなるわけではない。
誰も責めなくてもいい。誰も悪くないかもしれない。だけど、だったらこの寂しさをどう処理すればいい。