没落人生から脱出します!
 リーディエの中で、大人と子供の感情がせめぎ合う。大人としては理解してあげるべきだと分かっているけれど、抑え込んでいるだけでは、泣き続ける子供のリーディエが消えない。

「わた、私は、……いらない子じゃないって言われたかっただけよ。父がいるなら、一度でいいから抱きしめて欲しかっただけ……」

 ついに吐き出してしまったリーディエの赤い瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちた。

「リーディエさん」

 エリシュカは胸がいっぱいになっていた。
 愛されたい。必要とされたい。大事に思ってほしい。その感情は、エリシュカがキンスキー伯爵邸で抱き続けたものと同じだ。
 思わず、エリシュカはリーディエに抱きついていた。

「なっ。なによ」
「リーディエさん、男爵に会いに行きましょう!」

 エリシュカの発言に、リーディエは目が点になった。
 感情を吐露してはみたものの、それが受け入れられるとはリーディエ自身、思っていなかったのだ。

「でも、エリシュカ。あなただって今までの話、聞いてたでしょう?」
「だって、どうしてリーディエさんだけが我慢しなきゃならないんですか!」

 ブレイクもリアンもヴィクトルも、困ったものを見るような目でエリシュカを見る。リーディエだけは、瞳を困惑で揺らしている。

「リーディエさんは当事者です。なのにどうして、リーディエさんの気持ちは置いてきぼりなんですか」
「エリシュカ」

 ブレイクの手は、彼女に触れようとして止まる。『それは子供だから』と言いそうになったが、彼女たちは自分で判断ができないほど子供ではない。

「リーディエが納得できないのはわかる。けれど、大人にも事情があるんだ。母上の気持ちを慮ってあげてくれないか?」

 リーディエは気まずそうに黙った。けれど、おとなしくならなかったのはエリシュカだ。
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