没落人生から脱出します!
 翌日。

「エリシュカはちょっと無責任じゃない?」

 不満げに言うのはヴィクトルだ。
 リーディエが食事当番として奥に下がり、ふたりきりになったタイミングでの発言である。

「リーディエさんのことですか?」
「男爵に会ったら、きっとリーディエは傷つくよ」
「そうでしょうか」
「エリシュカは、男爵がリーディエを受け入れると思っている?」

 ブレイクの話を聞いた感じでは、男爵は優柔不断な弱い人だという印象を受けた。
 だけど、会いたいと言った娘を邪険にするような人でもないように思える。

「ヴィクトルさんは、思わないんですか?」

 頷いてから質問を返すと、ヴィクトルは深いため息をついた。

「その場だけは取り繕うんだろうなと思うけど。でもリーディエが反感を買う場合だってある。リーディエが子供としての権利を主張して来たら、困るのは男爵だ。彼女を脅威に感じて排除しようとしたら? 宙ぶらりんの今よりもずっとつらいんじゃないのかな」

 彼の想像は、だいぶ悪意がある。反論しようとすると、「人間はいい面ばかりじゃない」と断じられた。

「仮に受け入れられたとしても、リーディエだって優しくされれば期待するでしょう。次を望んだら、今度はリーディエのお母さんが訴えられるかもしれない。約束を破ったことになるんだからさ」
「それは……」
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