没落人生から脱出します!
「ほら、そこまで考えてないんだろ? 人のことだからって、簡単に会おうなんて言うもんじゃないよ」

 不愉快そうにそっぽを向く姿は、いつもの朗らかなヴィクトルからは考えられない。
 彼は、完全に怒っているのだ。

「……ヴィクトルさんが心配しているのは分かりました。でも、私は気持ちを殺しちゃいけないって思ったんです」

 怒られていると思うと、心が委縮する。それでも、伝えるべきことは伝えなければいけない。エリシュカは、ひと呼吸おいて話し出す。

「周りの気持ちを慮るのは大事です。でも、そんな遠慮で自分の気持ちを押し殺していたら、リーディエさん自身が、自分の気持ちをないがしろにするようになってしまいます」
「だからって……っ」
「なにをケンカしているの!」

 奥からリーディエが戻ってくる。ヴィクトルとエリシュカは互いに黙り込み、そっぽを向いた。リーディエがあきれたように腰に手をあてる。

「聞こえましたよ」

 リーディエはヴィクトルの前に立ち、ぽつりと言う。気まずそうにヴィクトルは目をそらした。

「傷つくかもしれないけれど、私は大丈夫ですよ。ヴィクトルさんもエリシュカも慰めてくれるんでしょう?」

 ほほ笑むリーディエに、エリシュカとヴィクトルは驚いて目を瞠る。

「私には心配してくれる人がいるって気づいたんです。だから大丈夫」
「リーディエ」

 ヴィクトルは言葉を捜すように口をぱくぱくと動かしたが、それ以上形を結ばずに黙ってしまった。
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