没落人生から脱出します!
* * *
リーディエは、初めて父の顔を見た。
バンクス男爵は、フレディと同じ茶色の髪と、赤の瞳を持っていた。この人だ、とリーディエの中の本能が告げる。
「あの、私のお父さん……なんですか?」
バンクス男爵の瞳がゆがむ。その反応に驚いて、リーディエはなにも言えなくなった。
「君が……リーディエかい?」
そう言った後、彼は頭を下げたのだ。
「悪かった。君には何もしてやれず、辛い思いをさせた。でもどうか、フレディに君が妹だとは言わないで欲しい。あの子に、なにも告げないでくれ」
リーディエは彼のつむじを見つめた。
頭を下げられたのは意外だった。貴族が平民に対して謝罪することなどないと思っていたから。
だけど、同時にもの悲しさが湧き上がった。
あくまでも、この人にとって、家族はフレディとその母なのだ。彼らを守ることが最優先で、それ以外はきっと、頭にない。
『育ててもいないのだから、僕は親とは言えないと思うけどね』
頭の中に、ブレイクの言葉が浮かんだ。
『男爵に会ったら、リーディエはきっと傷つくよ』と言った、ヴィクトルの言葉も。
それが胸を温める。言葉を紡ぐ勇気をくれる。
『それでも私は、気持ちを殺しちゃいけないって思ったんです』
(そうね、エリシュカ)
リーディエはほほ笑み、頭を下げた。
「もちろん、フレディ様には何も明かしません。母にも、奥方様にも。私はただ、……会ってみたかっただけなんです。〝父親〟というものに」
「……リーディエ」
「握手……していただいてもいいですか」
微笑んで、手を差し出す。男爵はハッと気づいたように手を伸ばし、彼女の手を握って、――そして引き寄せた。
男爵からはコロンのにおいがする。そんなことを、リーディエは彼の腕の中で思う。
「すまなかった、リーディエ。ありがとう。会いたいと言ってくれて、ありがとう」
男爵の声が、体が、小さく震えていた。自分への感情も少しは持ってはいてくれたのだと、苦笑する。
リーディエは、初めて父の顔を見た。
バンクス男爵は、フレディと同じ茶色の髪と、赤の瞳を持っていた。この人だ、とリーディエの中の本能が告げる。
「あの、私のお父さん……なんですか?」
バンクス男爵の瞳がゆがむ。その反応に驚いて、リーディエはなにも言えなくなった。
「君が……リーディエかい?」
そう言った後、彼は頭を下げたのだ。
「悪かった。君には何もしてやれず、辛い思いをさせた。でもどうか、フレディに君が妹だとは言わないで欲しい。あの子に、なにも告げないでくれ」
リーディエは彼のつむじを見つめた。
頭を下げられたのは意外だった。貴族が平民に対して謝罪することなどないと思っていたから。
だけど、同時にもの悲しさが湧き上がった。
あくまでも、この人にとって、家族はフレディとその母なのだ。彼らを守ることが最優先で、それ以外はきっと、頭にない。
『育ててもいないのだから、僕は親とは言えないと思うけどね』
頭の中に、ブレイクの言葉が浮かんだ。
『男爵に会ったら、リーディエはきっと傷つくよ』と言った、ヴィクトルの言葉も。
それが胸を温める。言葉を紡ぐ勇気をくれる。
『それでも私は、気持ちを殺しちゃいけないって思ったんです』
(そうね、エリシュカ)
リーディエはほほ笑み、頭を下げた。
「もちろん、フレディ様には何も明かしません。母にも、奥方様にも。私はただ、……会ってみたかっただけなんです。〝父親〟というものに」
「……リーディエ」
「握手……していただいてもいいですか」
微笑んで、手を差し出す。男爵はハッと気づいたように手を伸ばし、彼女の手を握って、――そして引き寄せた。
男爵からはコロンのにおいがする。そんなことを、リーディエは彼の腕の中で思う。
「すまなかった、リーディエ。ありがとう。会いたいと言ってくれて、ありがとう」
男爵の声が、体が、小さく震えていた。自分への感情も少しは持ってはいてくれたのだと、苦笑する。