没落人生から脱出します!
「姉様ー」

 屋敷の方から、エリシュカの弟たちの声が聞こえてくる。

「マクシムとラドミールだわ」

 途端に、エリシュカの顔が曇る。彼女のふたりの弟は、キンスキー伯爵待望の男の子ということもあり、両親からかなり溺愛されていた。しかも、双子なため、どちらが継承権を得るかで常に競い合っている。

 エリシュカは弟たちが羨ましいのだ。
 両親とエリシュカは、今はほとんど会話もしない。サビナとリアンに任せっぱなしだ。昔は一緒に散歩をしてくれたこともあった母親が、今は双子の散歩にすら誘ってくれない。
 だが、エリシュカの気持ちとは裏腹に、双子はエリシュカのことが大好きなのである。どちらが姉の愛情をより多く得ることができるのか、必死にアピールしてくる。

「姉様!」

 双子が近づいてきたので、リアンは脇に避ける。その隙間に入り込むように、右腕にマクシム、左腕にラドミールがしがみついた。

「痛いわ、放してふたりとも」
「嫌です。姉さま、どうしてリアンなんかと引っ付いているんですか。僕らと遊びましょう」
「そうだよ。僕らと遊ぼう」

 子供ながらに丁寧な言葉を使うのがマクシムで、あどけない口調なのがラドミールだ。
 エリシュカは困ったように眉を寄せ、ちらりとリアンを見た。

「リアンは私のお目付け役だもの。一緒に居てあたり前でしょう?」
「やだやだ! 僕たちと遊ぼうよ」

 ラドミールが駄々をこね、リアンは苦笑して一歩下がる。エリシュカは嫌そうだが、姉弟の仲は深めたほうがいい。両親とうまくいっていないエリシュカにとって、味方は多い方がいいと思うのだ。
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