没落人生から脱出します!
想像しただけで、胸がツンとした。優しいお兄さんだったんだろう。家族をとても大事にしていた人だったんだ。
「その兄貴が、突然倒れた。原因は魔力の枯渇。つまり、使いすぎだ。兄貴は死線をさまよった後、三日後に死んだ。俺に、この魔石を託して」
「そんな」
「勤め先の貴族は、魔力提供者の体調管理を怠ったということにもなる。そういう家だと知れ渡ると、魔力もちの平民は敬遠する。だから、死因は事故ということで処理してほしいと。見舞金って名目で金まで持ってきてさ」
エリシュカは掴んでいた彼の服を掴む。胸がざわざわした。エリシュカの実家──キンスキー伯爵邸でも、魔力もちの平民を雇っていた。必要のない大量のランプの魔道具に魔力を注ぐ彼等の、魔力残量になど誰も気を使っていなかったように思う。
「最低だろ? でももっと最低なのは俺たちだ。兄貴を殺した奴らからの金なんて要らないって、そう言いたかった。追い返したかった。だけど、兄の収入を失った俺たちは金が必要だった。弟と、下の妹ふたりの教育費が必要だったし、やがては妹たちの嫁入りのことだって考えなきゃならない。親にも葛藤はあったと思う。だが、結局、俺たちはあいつらの欲求を飲んだんだ」
「ヴィクトルさん」
「……兄貴の尊厳よりも、生活を優先した。呆れるだろう。しかもその負い目は、その後どれだけ言い訳したって、善行を積んだって、消えることはない。……馬鹿だった。路頭に迷ったとしても、選ばなきゃいけなかったのは兄貴のことだったのに」
懺悔に似たその話を、エリシュカはただ黙って聞いた。リーディエが言っていた、『ヴィクトルさんは貴族が嫌い』の原因はおそらく、これなのだろう。
ヴィクトルは、ずっと後悔して、自分と相手の貴族を憎みながら、まだ下にいる弟や妹たちのために、必死で抗っているのだ。
「その兄貴が、突然倒れた。原因は魔力の枯渇。つまり、使いすぎだ。兄貴は死線をさまよった後、三日後に死んだ。俺に、この魔石を託して」
「そんな」
「勤め先の貴族は、魔力提供者の体調管理を怠ったということにもなる。そういう家だと知れ渡ると、魔力もちの平民は敬遠する。だから、死因は事故ということで処理してほしいと。見舞金って名目で金まで持ってきてさ」
エリシュカは掴んでいた彼の服を掴む。胸がざわざわした。エリシュカの実家──キンスキー伯爵邸でも、魔力もちの平民を雇っていた。必要のない大量のランプの魔道具に魔力を注ぐ彼等の、魔力残量になど誰も気を使っていなかったように思う。
「最低だろ? でももっと最低なのは俺たちだ。兄貴を殺した奴らからの金なんて要らないって、そう言いたかった。追い返したかった。だけど、兄の収入を失った俺たちは金が必要だった。弟と、下の妹ふたりの教育費が必要だったし、やがては妹たちの嫁入りのことだって考えなきゃならない。親にも葛藤はあったと思う。だが、結局、俺たちはあいつらの欲求を飲んだんだ」
「ヴィクトルさん」
「……兄貴の尊厳よりも、生活を優先した。呆れるだろう。しかもその負い目は、その後どれだけ言い訳したって、善行を積んだって、消えることはない。……馬鹿だった。路頭に迷ったとしても、選ばなきゃいけなかったのは兄貴のことだったのに」
懺悔に似たその話を、エリシュカはただ黙って聞いた。リーディエが言っていた、『ヴィクトルさんは貴族が嫌い』の原因はおそらく、これなのだろう。
ヴィクトルは、ずっと後悔して、自分と相手の貴族を憎みながら、まだ下にいる弟や妹たちのために、必死で抗っているのだ。