没落人生から脱出します!
「……私、よくわかりませんけれど」

 エリシュカは頭に思ったことを、ただ告げた。それが彼にどう響くかはわからないし、正しいのかもわからない。正しさを思考するには疲れすぎてもいた。

「お兄さんは、今ヴィクトルさんやみんなが元気でいてくれるなら、それでいいと思っているんじゃないかと思います」

 家族の笑顔を、なによりも大事に思っていた人だ。稼ぎのほとんどを家族のために使っていた彼の、わずかな自分のためのお金。それさえも、兄弟の笑顔を見るために使っていたという彼ならば、自分のことよりも、彼らが幸せでいることを願うだろう。
 残酷なことを言うようだけれど、起きてしまったことは、戻らないのだから。

「エリシュカ」
「ヴィクトルさんが自分を責めていたら、お兄さんは心配するのではないでしょうか」
「言うねぇ……人のことだと思って」

 ヴィクトルが、怒っているのか呆れているのか分からない。でも、おぶってくれた手を緩めることはない。だからエリシュカは、続けた。

「そうですね。適当です。私が勝手に、そう思っただけ。……ですが、信じてほしいです。お兄さんの本心はもう聞けないですけど、最後の最後まで、その魔石を大切にしてきたお兄さんなら、きっとそう考えるって」

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