没落人生から脱出します!
開店三十分前に仕事にやってきたヴィクトルは、いつもの飄々とした笑顔だった。
「なんだ、リアン、出かけるの?」
「ああ。悪いが留守を頼むな」
「最近、忙しそうですねぇ、店長」
リーディエがそう言うと、リアンは頭をかきながら答えた。
「……冬が来る前に作りたいものがあるんだ。そのために材料が欲しくてな」
じゃあ行ってくると言って、リアンは店を出て行く。モーズレイとは途中で待ち合わせしているらしい。
見送った後は、仕事の準備だ。
「昨日は楽しかったわね、エリク」
「はい!」
リーディエと笑い合い、やる気が出てきたエリシュカは、店内の掃除を始める。
在庫の確認ののち、エリシュカが釣り用の硬貨を準備していると、すれ違いざまに「昨日はありがとね、エリシュカ」とヴィクトルが耳打ちしていった。
内容が内容だし、これ以上は深堀しない方がいいのだろうと思って、「はい」とだけ返事をする。
「さて、今日も一日頑張りましょう。開店です!」
ヴィクトルのひと言で、『魔女の箒』の一日は始まった。
* * *
しばらくは平和な日々が続いた。
リアンの素材調達はうまくいったらしく、一週間ほど作業場にこもってなにかしら作っている。
そんなある日、突然の嵐がやってきたのだ。
「ここ?」
「そうじゃない? おーい、こんにちは」
騒がしく入ってきたふたりの人物に、エリシュカは青ざめる。
同じ背丈に同じ顔、エリシュカの地毛と同じ銀色の髪を持つ十五歳の少年ふたり。
エリシュカの弟である、マクシムとラドミールだ。