没落人生から脱出します!
「なぜ従うのが当然なんですか? 結婚が嫌だとお嬢が言っているのなら、破棄してあげればいいじゃないですか。お嬢にだけ犠牲を払わせるなんて間違っている」
「犠牲なんて……。姉上にとって最良の嫁ぎ先ですよ。年は取っていますが、姉上を大事にしてくれると言っていましたし。そこでなら姉上もお金の苦労などしなくて済みます。なにより、家のために尽くせるんです」

 当然のように語るマクシムに、リアンは違和感しかない。キンスキー家という家名を守ることが一番で、そのためならば個人の気持ちは関係ないとでも言いそうな態度だ。
 これが貴族の考え方だというならば、エリシュカが馴染めるわけがない。

「……お帰り下さい」
「ん?」
「お嬢はここにはいませんし、もし居たとしても会わせません」
「はぁ。なに生意気言ってるんだよ。俺たちに逆らったら……」

 脅しをかけてくるラドミールを、リアンはにらみつける。

「俺をどうにかできるんですか? ここはあなた方の領土ではなく、俺はもうあなた方の使用人でもない」
「えっ……」

 初めてこの事実に気づいたとでも言うように、ラドミールが怯む。

「……姉上をかくまっているのなら、誘拐したということもできるんですよ?」

 負けじと言い返すのはマクシムだが、リアンは鼻で笑った。

「証拠がなければ、不利になるのはあなた方です。……俺はもう、あなた方にやり込められて泣き寝入りする子供じゃない。これ以上、ここに居座るようなら、法的な手続きをしてあなた方を入店禁止にします」
「……やれるものなら、と言いたいところですが、今日のところは帰ります。行くよ、ラドミール」
「ああ。リアン、姉上をかくまってもろくなことにはならないからな」

 最後のセリフは、負け惜しみだろう。言い捨てると、ふたりは出て行った。

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