没落人生から脱出します!
* * *

 目を覚ましたエリシュカは、全ての記憶を失っていた。
 自分が誰なのかも、前世の記憶も、リアンのことも全て。
 のぞき込んでくる双子の顔を見ても、疑問しかわかない。

「……誰?」
「姉様、僕らが分からないの?」
「同じ顔、双子なの?」

 双子は顔を見合わせ、声を合わせて泣き出した。
 夫人はふたりを優しく慰めながら、「あなたはエリシュカ。キンスキー家の長女です。池に落ちて頭を打ったのですよ」と淡々とした声で言う。
 医者の見立てでは、頭を打ったことと転落のショックで記憶喪失に陥っているのだろうと言うことだった。ある日、いきなり戻ってくるかもしれないし、一生このままかもしれない。けれど、生活様式などは体に身についているし、まだ七歳だから、勉学の遅れもすぐに取り戻せる。普通に生活をするには問題ないと判断された。

「大丈夫。姉様、僕らがいます。今日ここに生まれてきたと思えばいいのですよ」

 マクシムの手は温かく、エリシュカは自分を庇護してくれる存在がいることにほっとした。しかし、夫人も双子も、他の使用人も一様にリアン親子のことは口にしなかった。
 エリシュカは自分が池に落ちた原因も、心の底から信頼していたリアンのことも、思い出すことはなかったのである。
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