没落人生から脱出します!
「ふっわぁ、ビビった。でも格好良かったぜ、リアン」
「それにしても、凄い双子ね。どうして同じ家からエリシュカとあの子たちみたいなのが一緒に産まれちゃうのかしら。ね、店長──」

 リーディエはぎょっとする。リアンの表情が、いつもにもまして険しくて、驚いたのだ。

「店長……」
「ちょっと奥にいる。なにかあったら呼んでくれ」

 すぐに背中を向け、リアンは二階の作業場に向かった。作成中の魔道具の前に立ち、続きをやろうとして手を止める。

「……お嬢」

 リアンには、エリシュカを憎んでいた時期がある。
 エリシュカが溺れた後、リアンは彼女の安否も知らされないまま、両親ともども伯爵家を追い出された。
 それからしばらく、リアンは期待して待っていた。エリシュカが目覚めれば、リアンに非はなかったと言ってキンスキー伯爵を説得してくれるに違いないと。
 だが、両親が新しい職場に雇われても、すぐにキンスキー伯爵家からの物言いがつき、解雇された。三度も繰り返すころにはもう、諦めていた。
 きっと、エリシュカはもう自分のことなど忘れている。エリシュカにとっても、やはり自分は使用人に過ぎなかったのだと絶望した。
 やがて魔力供給しか仕事が無くなり、生気を奪われるように両親で死んでからはもう思い出さないようにしていた。エリシュカの思い出があると伯爵を憎みにくくなる。
 だが、ここで再会し、エリシュカが記憶を失っていることを知って、その気持ちはぱっと霧散した。

(家族にかこまれていながら、ずっと孤独だったんだな。エリシュカは。……それにしても、あんな兄妹と両親に囲まれて、よくあのお人よしの精神を失わないものだな)

 彼女が、伯爵家を自分から出てきたことには大きな意味がある。
 深呼吸して、作成中の魔道具に向かい合うリアンの瞳からは、迷いの色が消えていた。

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