没落人生から脱出します!
 伯爵の声には、迷いなどひとつもない。本当に、ただの所有物としてしか存在を認められていないことに、エリシュカは脱力する。

(お父様が私を捜しているのは、まだ利用価値があるからなのね)

 空しかった。どうあっても、エリシュカが思う〝家族〟に、彼らが当てはまらない。

(血のつながった私の家族……なのに)

 なまじ前世の記憶があるから、だから家族に対する欲を捨てられないのだろうか。

「出さないなら、その責任をお前に取ってもらう。お前の妻は、相変わらず眠ったまま起きないのだろう? エリシュカの代わりに、お前の妻をいただいていこう」

 エリシュカもリアンも、もちろん正面で対峙しているブレイクも、伯爵の言っていることの意味が分からず、動きを止めた。

「は? 何言ってるんだ? 兄さん」
「エリシュカのお相手──バルウィーン男爵は大富豪だ。治療費も出してくれるさ。お前の妻は見た目も若いし、どうせ目を覚まさない。病気のエリシュカと偽っても、ばれることはないだろう?」

 とんでもない暴論だ。ブレイクも顔色を変え、伯爵に掴みかかる。

「兄さんは、他人の尊厳を守るってことを知らないのか? レオナは治療を続けなければ死んでしまうし、目を覚まさなくとも僕の大事な妻だ。エリシュカの代わりにするなんて権利、兄さんにあるわけがないだろう? ふざけるな」

伯爵は抵抗し、ブレイクの腕をきつく掴んだ。

「うるさい! お前だって、本来ならばキンスキー伯爵家のものだ! 言うことも聞かず出て行って、勝手に結婚して! こんな時くらい家のために尽くしたらどうなんだ!」
「勝手になんてしていない! 結婚式に呼んだのに、来なかったのはそっちじゃないか」

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