没落人生から脱出します!
 エリシュカの瞳には、涙が浮かぶ。
 もっともっと、リアンやみんなと魔道具を作っていたかった。毎日ワクワクしながら、支え合っていきたかった。

「お父様の借金のためには嫌だけど、叔父様やリアンを守るためなら、犠牲になってもいいです」
「エリシュカ!」

 なおも止めようとするリアンを、伯爵が払いのける。

「ふん。あのときのガキがまだ生きていたのか。平民の子だというのに、昔からお前はその生意気そうな目を俺に向けてくる」
「お父様やめて。リアンは何も悪くないでしょう? これ以上ひどいことを言わないで」

 リアンのことまで傷つけられるのは嫌だ。エリシュカが必死に訴えると、伯爵は彼女の腕をつかんだまま、もう片方の手で彼女の頬を打ち付けた。

「いいだろう。誓え、エリシュカ。もう二度と、反抗などしないと」
「え?」
「誓うな、エリシュカ」

 リアンとブレイクが叫ぶ。だけど、父の本気を感じ取ったエリシュカは彼を見つめ返す。

「叔父様の家庭にも手を出さないと約束してくれるなら誓うわ」
「いいだろう」
「……金輪際。お父様のいうことには逆らいません。……これでいい?」

 父の唇が弧を描くのが視界に入る。屈辱に似た感情がエリシュカを襲った。

「よし。いいだろう。最初からそう言っていれば、こんな大ごとにはならなかったんだ。邪魔したなブレイク。お前ももう二度とエリシュカを匿ったりするなよ」

 伯爵はエリシュカの腕をつかんだまま、ずんずんと進んでいく。半ば引きずられるように歩くエリシュカの背中に、リアンの叫び声が響いた。

「行くな、エリシュカ」

 引き留めてくれる声に、泣きそうになる。それでも、これ以上父親とリアンを関わらせたくはなかった。
 彼の両親を追い詰め、死にまで追いやったのは間違いなく父のせいなのだから。

「叔父様、……リアン」

 涙をこぼしてしまわないよう、目に力を込めながら、エリシュカは必死に笑顔を作る。

「今までありがとうございました」

 絞り出したその声に、返事はなかった。
 エリシュカは伯爵の載ってきた馬車に乗せられ、使用人たちに今までのお礼を言う暇もなく、キンスキー領内へと連れ戻されてしまったのだ。
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