没落人生から脱出します!
「うちの土地を……ですか?」
「そうだ。家具を中心とした製造業で起業を考えているのだそうだ。良質の木材を捜しておられて、ぜひうちの土地を買いたいと……」
「でも、それなら木材のみを取引したほうがモーズレイさんにはいいのでは。山の管理は大変ですよ?」
キンスキー領には熟練の職人たちがいるから何とかなっているが、素人が突然できるものではない。
(それに、モーズレイさんにそんなお金あるわけないじゃない!)
内心焦るエリシュカを、伯爵はじろりとねめつける。
余計なことは言うなということだろう。
「エリシュカ。そこは心配しなくてもいい。うちで雇っていた職人を紹介することになっている。みな、木こり一筋で生きていた人間だ」
伯爵がそう言うと、モーズレイはうれしそうに頷く。
「そうなんですよ。それで、土地に詳しい人間に管理をお願いしたいのですよ。できれば身分のある、木こりたちがきちんと指示を聞いてくれるような人にお願いしたくて。そうしたらお嬢さんのお話になりまして」
エリシュカは焦って父の顔を見る。
「お父様。では私の結婚は?」
「その話なのだが」
キンスキー伯爵は、手招きしてエリシュカを近くに呼び、小声で「あちらから婚約破棄を願う手紙が寄こされたのだ」と告げる。
「そうなのですか?」
以前の手紙の感じでは心待ちにしているようだったのに。エリシュカにとっては助かるが、急な心変わりについていけない。
父がこそこそと話す内容をまとめると、どうやら社交界で『バルウィーン男爵が隠居と共に若い女の子を囲うらしい』という噂が立ったそうだ。
その噂は、全くの嘘というわけでもない。それまでは、父が勝手にやることと傍観していた息子夫婦の妻の方がこの噂に拒否反応を示し、猛反対し始めたのだそうだ。
王都から離れた地方の男爵家と伯爵家の結婚の話題など、報告に行くまで話題にのぼることもないはずだが、珍しいこともあるものだ。