没落人生から脱出します!
「まあお前も嫌がっていたし。男爵も、破棄を了承してくれるならば支度金は返さなくていいと言ってくれたのでな。とはいえ、今後、お前には婚約破棄されたという不名誉な過去が付いて回る。すぐに次の嫁ぎ先が見つかることはないだろう。そこでしばらくの間、お前に山林の管理に回ってもらえばいいかと思ったのだ」

 エリシュカは、家出前、没落していく家を守るため、領地の管理についてもひと通り学んでいた。主力産業である木材加工を盛り上げるためにと、職人たちと話し合ったこともある。
 父よりは適任だと言えるだろう。

「土地の権利自体を手放せれば、年間にかかる管理料が削減できる。そうであれば、男爵からの援助がなくともなんとかなるだろう」
「でも領民はどうなるんですか」
「売るのは山だけだ。人が住む土地は当然伯爵家で管理する。山に入る人間はモーズレイ氏に雇用される形になり、もちろん給料は彼から支払われる」

 つまり、厄介者となっていた山林は売り払えるも、税金を支払ってくれる領民は失うことがない。加えて、領民にも仕事を与えてもらえるというおいしい条件なのだ。それがずっと続くのならば、確かに結婚による一時的な支援よりも旨味はある。

(……つまり、お父様は、モーズレイさんの申し出の方が得だと判断したのね?)

 その点に置いて虚しさは感じつつも、相手がモーズレイだということは、きっとリアンやブレイクが絡んでいる。エリシュカは目を伏せたまま「分かりました」と従順を装った。

「では娘を管理人としてあなたにお預けするということでよろしいですね」
「ああ。助かる。では一週間後、正式な契約書を持って再びお伺いする。お嬢さんはうちの屋敷に来てもらうので、旅支度をしておくように」
「分かった」
「ではこれで、失礼する」

 頑張って威厳を保っていたであろうモーズレイの最後の声はやや上ずっていた。
 何が起こっているのか分からないが、エリシュカの胸には希望が湧き上がった。
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