没落人生から脱出します!
「破談はお前たちのせいだったのか!」
リアンは一歩前に出た。身長が高いので、怒っていると威圧感がある。見下ろされて、伯爵は一歩後ずさる。
「あなたがそこまで言うのなら、この契約は破棄しても構いません。それでも、エリシュカだけはいただいていきますよ」
「え?」
突然名前を呼ばれ、エリシュカは戸惑いを隠しきれない。リアンがまっすぐに手を差し出してくるのを、まるで、スローモーションの映像を見ているような感覚で見つめた。
「……エリシュカ、俺と行こう」
「で、でも。借金が」
「お前が責任を負うことじゃない。貴族じゃなくなっても構わないんだろう? だったら、俺と行こう。ただのエリシュカになって」
エリシュカは戸惑い、リアンと父の顔を交互に見る。伯爵は目を血走らせてリアンを睨みつけていた。
「俺はもう、キンスキー伯爵には潰されない。ブレイク様だってそうだ。だからお前が、そこまでして守ろうとしなくてもいいんだ。心置きなく自分のために動け!」
エリシュカは唇を嚙みしめた。そうやって堪えないと、泣いてしまいそうなのだ。
好きな人のためなら、犠牲になれる。そう思ったけれど、やっぱり嘘かもしれない。
だって、やっぱり生きるなら幸せなほうがいい。自由になっていいと言われただけで、こんなにもうれしいのだから。
「リアン……!」
彼に近寄ろうとしたエリシュカの腕を、キンスキー伯爵が掴んで止める。
「待て、エリシュカ」
「離して、お父様」
もみ合うふたりの間に、リアンが入り、キンスキー伯爵の手を掴み上げる。