没落人生から脱出します!
「もう一度お伺いします。この契約書にサインするなら、エリシュカは仕事としてこの家を離れるだけです。そうでないなら、エリシュカは自分の意志でこの家から出て行きます。どうしますか? 契約は悪い条件ではなかったはずです。受けたほうがあなたにはメリットがあるでしょう。ただそれにサインをした瞬間、俺は元使用人の子ではなく、あなたとの取引相手です。立場は対等だ。失礼な態度に対しては、正式に抗議する資格を得ることになります。よろしいですか」
毅然としたリアンは、家名に胡坐をかいて偉ぶる父よりも、よっぽど大人に見えた。
「……っ、くそっ」
伯爵は地団駄を踏むような勢いで、二度足を床にたたきつけたが、やがて諦めたようにサインを書いた。エリシュカの結婚が破談になった今、借金の返済に関して取れる手立ては他にはないのだ。
リアンは判の押された書類を手にし、満足そうに微笑むと、伯爵の手からエリシュカを奪い取った。
「では、あの山林は今後、我々のものとなります。そしてエリシュカも、こちらで預かります。ご安心ください。あなた方以上に、彼女のことは大切にしますから」
「リアン、貴様……」
握り込んだ伯爵の拳を、リアンはじろりと睨む。