没落人生から脱出します!
「今、なんと言いましたか?」
「……いや。何でもない」
「ではサインもいただきましたので、これで失礼します。エリシュカ、準備はできているか?」
「は、はい!」
エリシュカの着替えなどが入ったかばんは、使用人の一人がもっている。リアンはそれを受け取り、エリシュカと手をつないだまま踵を返す。
「行こう。モーズレイ」
「ああ」
今この場を制しているのは完全にリアンひとりだった。引っ張られるように部屋を出ると、蒼白な顔をしたキンスキー夫人がいる。
「これは奥様」
リアンが軽蔑のまなざしを向けると、夫人はおののいたように口もとを押さえる。
「本当にリアンなの?」
「ええ。嘘つきの奥様。失礼します」
すれ違いざま、エリシュカは母の顔を盗み見る。エリシュカよりも、彼女はリアンを食い入るように見ていた。
「お母様」
ずっと、母親に愛されたいと思っていた。愛されなければ、家族の一員ではいられなくなるような恐怖もあった。その思いとも、別れを告げるときが来たのだと、エリシュカには自然に思えた。
「さよなら」
その途端、母の視線はエリシュカにうつる。理解のできないものを見るように、何度か瞬きをして。視線を外したのは、エリシュカの方が先だった。ここで愛を求めなくても、自分らしい自分を認めてくれる人がいる。ひとつの執着がエリシュカの手を離れた瞬間だ。
「行くぞ。エリシュカ」
リアンはエリシュカの手を離すことはなく、威風堂々と使用人たちが見守る中を歩いていく。後ろをついてくるモーズレイは、その体の大きさからまるで護衛のようだ。
「話したいことがたくさんあるんだ」
「私もです」
泣きたいほどうれしくて、エリシュカは離れないようにしっかりとリアンの手を握った。
「……いや。何でもない」
「ではサインもいただきましたので、これで失礼します。エリシュカ、準備はできているか?」
「は、はい!」
エリシュカの着替えなどが入ったかばんは、使用人の一人がもっている。リアンはそれを受け取り、エリシュカと手をつないだまま踵を返す。
「行こう。モーズレイ」
「ああ」
今この場を制しているのは完全にリアンひとりだった。引っ張られるように部屋を出ると、蒼白な顔をしたキンスキー夫人がいる。
「これは奥様」
リアンが軽蔑のまなざしを向けると、夫人はおののいたように口もとを押さえる。
「本当にリアンなの?」
「ええ。嘘つきの奥様。失礼します」
すれ違いざま、エリシュカは母の顔を盗み見る。エリシュカよりも、彼女はリアンを食い入るように見ていた。
「お母様」
ずっと、母親に愛されたいと思っていた。愛されなければ、家族の一員ではいられなくなるような恐怖もあった。その思いとも、別れを告げるときが来たのだと、エリシュカには自然に思えた。
「さよなら」
その途端、母の視線はエリシュカにうつる。理解のできないものを見るように、何度か瞬きをして。視線を外したのは、エリシュカの方が先だった。ここで愛を求めなくても、自分らしい自分を認めてくれる人がいる。ひとつの執着がエリシュカの手を離れた瞬間だ。
「行くぞ。エリシュカ」
リアンはエリシュカの手を離すことはなく、威風堂々と使用人たちが見守る中を歩いていく。後ろをついてくるモーズレイは、その体の大きさからまるで護衛のようだ。
「話したいことがたくさんあるんだ」
「私もです」
泣きたいほどうれしくて、エリシュカは離れないようにしっかりとリアンの手を握った。