没落人生から脱出します!

 大きな馬車は、セナフル家からの借りものらしい。そうとばれないように、家門に細工したり、より豪華に見えるように金メッキをつけたりと、材料調達や加工に手を尽くしてくれたのは、リーディエとヴィクトルなのだという。

 エリシュカを取り戻すために、リアンとブレイクは商会を立ち上げることを思いついたのだそうだ。対等の立場を手に入れなければ、キンスキー伯爵は交渉のテーブルにすら乗ってくれない。加えて、リアンとブレイクが表に立てば、伯爵は絶対に話し合いには応じないだろう。それで、モーズレイを共同経営者として引き入れ、彼のみを表に立たせて交渉してきたのだという。

 馬車に揺られている間に、リアンは簡潔にここに来た経緯を説明した。
 エリシュカの理解はまだ追いついていなかったが、とりあえずは頷いておく。
 モーズレイが気を聞かせたのか御者席の隣に移り、馬車の中にいるのはふたりだけだ。
 リアンはひと呼吸置くと、「元気だったか?」と微笑んでくれた。
 エリシュカも笑おうと思った途端に目尻に涙が浮かぶ。

「あれ……あれ?」

 泣くつもりなどなかったところで涙があふれ、エリシュカは慌てて顔を隠す。

「エリシュカ……」
「ち、違うんです。大丈夫だったんですよ。みんな怒ってはいましたが、暴力を受けたわけではありませんし。婚約の話もうまいことなくなったし。それに、リアンたちが迎えに来てくれました」

 必死に訴えるエリシュカに、リアンは神妙な顔で首を横に振る。

「そうじゃない。お前はあの屋敷で、本当に大丈夫だったのか?」

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