没落人生から脱出します!
 リアンのまなざしは、あまりにもまっすぐだった。なにを問われているのか。一瞬分からなくて、すがるように彼を見上げる。

「〝エリシュカ〟を、潰されそうにならなかったかと聞いている」

 それは、キンスキー伯爵家では絶対に尊重されないもの。跡継ぎでもない娘には必要とされない個性。ずっと、エリシュカが認めてもらえずにきたもの。

「それ……は」

 潰されそうだった。ただ、家の言うとおりに結婚することだけが大事で、〝エリシュカ〟が必要なんじゃない。〝キンスキー伯爵家の娘〟が必要なだけだった。

「つ、潰れる前に、リアンが来てくれました」

 リアンの表情が陰る。涙はボロボロ零れるけれど、笑ってほしくてエリシュカはほほ笑んだ。

「だから、大丈夫です」
「エリシュカ」

 リアンの手が、エリシュカの背中に伸びる。
 すぐに力が込められて、エリシュカの涙は、押し付けられたリアンのシャツの胸のあたりに吸い込まれていく。

「俺は、家族というのは、互いに与え合うものだと思う。血のつながりなんて関係なくて、互いに家族で居続ける努力が、できるかできないかが大事なんだと」

 抱きしめられた驚きと、ぬくもりがもたらす安心感に翻弄されるエリシュカは、ただ黙って、リアンの言葉を聞いた。

「お前は、血がつながっているんだから伯爵を家族だというけれど、俺は、お前だけが犠牲になって必死に保とうとする関係が家族だなんて思えない」

 そうかもしれない。血にこだわっていたのは、父だけではない。エリシュカもだ。

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