没落人生から脱出します!
 まざまざとよみがえるあの頃の記憶は、エリシュカにとって、とても大切なものだった。孤立するキンスキー伯爵家で、ただひとつの、心のよりどころだったリアン。エリシュカが自己肯定感を失わなかったのは、リアンがいてくれたからだ。

(思い出せなかったのは、自己防衛だったのかもしれない)

 リアンがいなくなったあの屋敷で、この思い出を持ち続けていたら、きっとそれからの生活の寂しさには耐えられなかっただろう。

「会いたかったです。リアン」
「……エリシュカ」

 抱きしめられる腕に、力がこもる。

「家族になろう」
「え?」
「俺はもう、血のつながりなんかで、伯爵にお前を奪われるなんてたくさんだ」

 エリシュカの顔に血が集まってくる。一体どういう意味合いでその言葉を言っているのか。

「リアン……あの」

 そこで、馬車が止まり、ふたりは慌てて体を離した。

「ついたぜ、おふたりさん」

 にこやかに馬車の扉を開けたモーズレイは、ふたりが妙に離れて顔を染めているのを見て、「早すぎたか。悪かったな」と頭をかきながらいい、エリシュカは恥ずかしくてたまらなくなった。


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