没落人生から脱出します!
「あったかいです」
そう言った途端、背中から椅子ごと抱きしめられた。リアンの息が、肩にかかり、鎖骨のあたりを通って霧散する。エリシュカはドキドキして、心臓がおかしくなってしまいそうだ。
「リアン……」
「俺……エリシュカに対しては、いろんな感情が渦巻きすぎてて、なんて良いっていいのか分からないんだ」
「いろんなって……」
「最初はわがままな令嬢だったし、そのくせ、説明すれば妙に素直に受け入れるし、旦那様たちと違って、俺たち使用人を家族みたいに扱ってくれて。大人になってからは、もう俺たちのことなんて忘れたんだなって思って……。そしたら記憶喪失だって言うし。おかげで俺はすごく複雑な気分だったんだ。うれしいやら悔しいやら」
おでこを肩に押し付けられて、顔は全然見えない。そのせいかリアンにしては饒舌に、自分の気持ちを話してくれる。
「ただ、ひとつだけ言えることは、俺は多分、お前のことを忘れたことが一度もない」
エリシュカは思わず息をのむ。その動作が、触れた肌を伝って、リアンにも届いているかと思うとますます動揺してしまう。
「だから魔道具を作り続けた。お前を見返す為……っていのは多分、幼い俺の精いっぱいの強がりで。たぶん単純に見せたかったんだ。お前に、……笑ってほしくて」
「リア……」
「エリシュカ」
名前を呼ばれ、まるで金縛りにあったように動けなくなる。
「俺は多分、昔からお前のことが好きなんだ。……だから、家族になりたい。一方通行じゃない、与え合う存在に」
胸がいっぱいとは、こんな状態のことを言うのだろう。顔が熱くて喉も熱くて、この喜びをうまく言葉にできない。
「う……あ、は、はい」
戸惑いがちに返事をすれば、リアンは無言のままだ。沈黙の長さが気になって、顔を見るために無理やり体をねじると、いじけたような拗ねたような視線とぶつかった。