没落人生から脱出します!
 エリシュカは叔父の存在を思い出した。名前はブレイク・キンスキー。父とは年が離れていて、まだ三十歳そこそこのはずだ。たしか交易商人だと言っていた気がする。
 父と叔父は折り合いが悪かったようで、叔父はほとんど屋敷に姿を見せなかった。
 エリシュカが覚えているのは、八年前、ひょっこりやって来たときのことだけだ。
 叔父は子供たち三人におもちゃをお土産にとくれた。彼が言うには、五年ほど前にも一度屋敷を訪れ、エリシュカとは話をしたのだという。エリシュカは覚えていないことを謝り、七歳以前の記憶がないことを説明した。
 叔父は、エリシュカが記憶を失っていたことを残念がり、『僕たちは、記憶を無くす前も仲良しだったんだよ』と笑ってくれたのだ。
 その後、叔父と父はケンカをしたようで、滞在時間はそれほど長くなかった。父は見送りさえせず、エリシュカはトボトボと歩く叔父の後ろ姿を見て、寂しい気分になったのだ。

(叔父様のところに、身を寄せては駄目かしら)

 足が付きやすい逃げ場所ではあるが、女がひとりで街に出て、危険がないとは思えない。
 政略結婚は嫌だが、誰とも知らぬ男に襲われるのはもっと嫌だ。せめて生活する力を身に着けるまで、保護してもらいたい。
 でも、八年も会っていない姪が訪ねて行っても迷惑だろうか。
 風が吹いて、エリシュカの銀髪を揺らす。彼女は首をぶんぶん振ってから顔を上げた。

「考えるより動こう。駄目な理由ばかり考えていても、委縮するだけだわ」

 エリシュカは、するすると木から降りると、屋敷の中に戻った。叔父が今どこにいるのか、確かなことはわからない。ただ、昔くれたお土産に、叔父に関するヒントがあるかもしれない。
 八年前にもらったおもちゃは、幼い子供向けのもので、すぐに遊ばなくなった。だけど、叔父のことが気になっていたエリシュカは、捨てずにおもちゃ箱の奥にしまい込んでいたのだ。

「……あったわ!」
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