没落人生から脱出します!
*
王都の名門校・シグレイド王立学校では、生徒間で一波乱が巻き起こっていた。
「授業料を払わない貧乏貴族がいるんだって?」
探るような声に、マクシムとラドミールは目を見合わせる。
昨日父から来た手紙によれば、滞納していたが、ようやく金銭の目途が立ったため、支払いを済ませたという内容だった。だから、声高に語るアルダーソン侯爵子息チャーリーの言には誤りがある。
しかしそれを指摘したら、自分たちが滞納者だったことがばれてしまうため、口をつぐんでいるのだ。
「どこの田舎貴族かなぁ」
チャーリーはめぼしはついているのだろう。これ見よがしにキンスキー家の双子を見やる。
「あいつ……!」
「落ち着いけ、ラドミール」
いきり立ちそうなラドミールを、マクシムが止めた。金に困っていることを皆に知られれば、この学校で生きていくのが大変になる。
「姉上が、縁談を蹴らなければ……」
マクシムがため息とともにつぶやくと、ラドミールは首をかしげる。
「でも、最終的にはバルヴィーン男爵のほうから断ってきたんじゃないの?」
「最初の時点で輿入れしていれば、こんなことにはならなかっただろう?」
「なるほど? さすがマクシム。頭がいい」
何も考えず、ラドミールは頷いた。
マクシムは顎に手を当てて考える。姉はもう、キンスキー伯爵家の駒にはならないかもしれない。
昔から変わったことばかり言う姉だった。
幼い頃、自分たちには想像もつかないことを話す姉を、マクシムは憧れの気持ちをもって見つめていた。しかし同時に、彼女の言動が母親を苛立たせていたことも、幼いながらに感じ取っていたのだ。
結局、マクシムが選択したのは、母親の機嫌を損ねないことだった。あの家で一番の権力者が父、次が母だ。にらまれたら生き辛いことになるのは明白で、だからそれができない姉のことが不思議で仕方なかった。
本心と違くとも、生き延びるために黒を白ということに何の問題があるだろう。
そうやって生きてきたマクシムにとって、姉は今になってもわからない存在だった。
「なあ?」
王都の名門校・シグレイド王立学校では、生徒間で一波乱が巻き起こっていた。
「授業料を払わない貧乏貴族がいるんだって?」
探るような声に、マクシムとラドミールは目を見合わせる。
昨日父から来た手紙によれば、滞納していたが、ようやく金銭の目途が立ったため、支払いを済ませたという内容だった。だから、声高に語るアルダーソン侯爵子息チャーリーの言には誤りがある。
しかしそれを指摘したら、自分たちが滞納者だったことがばれてしまうため、口をつぐんでいるのだ。
「どこの田舎貴族かなぁ」
チャーリーはめぼしはついているのだろう。これ見よがしにキンスキー家の双子を見やる。
「あいつ……!」
「落ち着いけ、ラドミール」
いきり立ちそうなラドミールを、マクシムが止めた。金に困っていることを皆に知られれば、この学校で生きていくのが大変になる。
「姉上が、縁談を蹴らなければ……」
マクシムがため息とともにつぶやくと、ラドミールは首をかしげる。
「でも、最終的にはバルヴィーン男爵のほうから断ってきたんじゃないの?」
「最初の時点で輿入れしていれば、こんなことにはならなかっただろう?」
「なるほど? さすがマクシム。頭がいい」
何も考えず、ラドミールは頷いた。
マクシムは顎に手を当てて考える。姉はもう、キンスキー伯爵家の駒にはならないかもしれない。
昔から変わったことばかり言う姉だった。
幼い頃、自分たちには想像もつかないことを話す姉を、マクシムは憧れの気持ちをもって見つめていた。しかし同時に、彼女の言動が母親を苛立たせていたことも、幼いながらに感じ取っていたのだ。
結局、マクシムが選択したのは、母親の機嫌を損ねないことだった。あの家で一番の権力者が父、次が母だ。にらまれたら生き辛いことになるのは明白で、だからそれができない姉のことが不思議で仕方なかった。
本心と違くとも、生き延びるために黒を白ということに何の問題があるだろう。
そうやって生きてきたマクシムにとって、姉は今になってもわからない存在だった。
「なあ?」