没落人生から脱出します!

 
 王都の名門校・シグレイド王立学校では、生徒間で一波乱が巻き起こっていた。

「授業料を払わない貧乏貴族がいるんだって?」

 探るような声に、マクシムとラドミールは目を見合わせる。
 昨日父から来た手紙によれば、滞納していたが、ようやく金銭の目途が立ったため、支払いを済ませたという内容だった。だから、声高に語るアルダーソン侯爵子息チャーリーの言には誤りがある。
 しかしそれを指摘したら、自分たちが滞納者だったことがばれてしまうため、口をつぐんでいるのだ。

「どこの田舎貴族かなぁ」

 チャーリーはめぼしはついているのだろう。これ見よがしにキンスキー家の双子を見やる。

「あいつ……!」
「落ち着いけ、ラドミール」

 いきり立ちそうなラドミールを、マクシムが止めた。金に困っていることを皆に知られれば、この学校で生きていくのが大変になる。

「姉上が、縁談を蹴らなければ……」

 マクシムがため息とともにつぶやくと、ラドミールは首をかしげる。

「でも、最終的にはバルヴィーン男爵のほうから断ってきたんじゃないの?」
「最初の時点で輿入れしていれば、こんなことにはならなかっただろう?」
「なるほど? さすがマクシム。頭がいい」

 何も考えず、ラドミールは頷いた。
 マクシムは顎に手を当てて考える。姉はもう、キンスキー伯爵家の駒にはならないかもしれない。

 昔から変わったことばかり言う姉だった。
 幼い頃、自分たちには想像もつかないことを話す姉を、マクシムは憧れの気持ちをもって見つめていた。しかし同時に、彼女の言動が母親を苛立たせていたことも、幼いながらに感じ取っていたのだ。
 結局、マクシムが選択したのは、母親の機嫌を損ねないことだった。あの家で一番の権力者が父、次が母だ。にらまれたら生き辛いことになるのは明白で、だからそれができない姉のことが不思議で仕方なかった。
 本心と違くとも、生き延びるために黒を白ということに何の問題があるだろう。
 そうやって生きてきたマクシムにとって、姉は今になってもわからない存在だった。

「なあ?」

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