没落人生から脱出します!
* * *

 ラドミールの暴力事件は、マクシムの努力むなしく、生徒間のいざこざでは収まらなかった。
 チャーリーの父親であるアルダーソン侯爵は激怒し、キンスキー伯爵に王都にきて謝罪するよう求めたのだ。
 その手紙を受け取った伯爵は、仕方なく夫人とともに馬車で王都へと向かっていた。

「まったく。手紙で十分な話だろうに。無駄な金をかけさせよって」
「まあ、手を出したのはこちらに非がありますでしょう? 仕方ないじゃありませんの」
「大体お前が甘やかすからいけないのだ」

 夫人はむっとして夫を睨む。

「ラドミールの気性が荒いのは、あなたに似ているんじゃありませんか」

 責任を押し付けあうだけで、反省とは縁遠いふたりだ。王都までの長い道のりを、ふたりはそっぽを向いたまま過ごした。

 その後、王都にあるアルダーソン侯爵邸での面会でも、反省の見えない二人の傲慢な態度は、いかんなく発揮された。

「そもそも、ご子息が息子に失礼なことを言ったそうではないですか」

 謝るでもなく、開口一番そう言われ、侯爵は絶句した。

「確かにチャーリーが悪くないとは言わない。しかし、仮にも貴族の子息がすぐに手を挙げるなど、どうかしている」
「うちのラドミールは俊敏でしてな。騎士にもなれるのではないかと思っているのです」

 悪びれもしない伯爵に、侯爵は頭を抱えた。
 そもそも、アルダーソン侯爵は、キンスキー伯爵のことをよくは思っていなかった。彼は財務大臣をしていて、税金を滞納している貴族リストの中にキンスキー伯爵の名を見ていたからだ。
 しかも、先祖代々受け継がれてきた土地を、王家に伺いも立てずに勝手に売るなど、前代未聞だ。唯一の救いは、買い取ったレイトン商会は、金払いがしっかりしていることだろう。

(こんなにいい加減な男なら、それも当たり前か)

「もういい! 話にならん、帰ってくれ」
「わざわざ呼び出しておいて、帰れとはどういうことですかな」
「本来こちらが言わなくとも、謝罪をしにくるものだろう! もういい、でていけ!」

 夫妻は追い立てられるようにして、侯爵邸をでた。
 こうして、キンスキー伯爵は面倒な敵をひとり増やしてしまったのである。

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