没落人生から脱出します!
* * *

「……いやー。すごく忙しかったな」

 セナフル家の居間のソファで、ため息とともにそう言うのはリアンだ。
 この半年、休み暇もないほどの忙しさだったのだ。

「でも、よかったです。高魔力水で、たくさんの人が救われますもん」

 エリシュカは入れてきたコーヒーをテーブルに置き、リアンの隣に腰掛ける。ブレイク夫妻は自室にこもっていて、今は二人だけだ。

「おかげで俺たちの話は全然進まないけどな」

 銀の髪を、リアンの手が梳いていく。エリシュカはドキドキしながらリアンの視線を受け止めていた。

「話って?」
「結婚の話だよ。本当はさ、エリシュカの十八の誕生日には入籍したかったんだ」

 貴族間では、結婚は家同士のつながりだが、平民は自由意志に基づいている。
 本来なら親の了承は必要だが、十八歳を過ぎれば本人の意思だけでも結婚できる。エリシュカが十八になったのは、三ヵ月前のことだ。

「……そんなこと、考えてくれていたんですか」

 リアンが照れたように顔に手を押し付けていて、その隙間から見える頬は赤い。
 エリシュカはうれしくなって、その手を外そうとした。

「こら、見るな」
「あはは、だって、リアンが照れているのは珍しいし」

 力を込めて手を引っ張ったら、予想外に簡単に手が離れて、エリシュカはバランスを崩して背中から倒れそうになる。

「おっと」

 とても近い距離で抱き留められて、エリシュカは彼の膝に乗せられるような形になった。

「り、リアン」
「……お前はかわいいな」

 リアンの顔が近づき、額に小さなリップ音がする。

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