没落人生から脱出します!
「まあまあ、僕の奥さんのお願いを聞いてやってくれないかな」
「お願いですか?」
「ええ。私、エリシュカちゃんのドレスに刺繍がしたいの!」
「ドレス……ですか?」

 そこで、エリシュカは思い出した。この国の結婚は、基本教会で神の前で誓いを立てることで完了する。
 指輪の交換もなく、前世での結婚式のような華やかなお披露目は貴族でなければしない。
 ただ、幸せになるジンクスだといわれているのが、母親か祖母に刺繍を入れてもらったドレスを着るということだ。
 エリシュカは半分家出しているようなものだし、エリシュカの母は娘に刺繍入りのドレスを贈る気などなかった。
 だから刺繍のドレスなんて諦めていたのだが。

「だから、ドレスを見立てて刺繍を入れる期間だけ、待ってほしいの。お願い。ね、エリシュカちゃん」
「いいんですか? 叔母様」
「私が贈りたいのよ。大事な姪の結婚ですもの。ちゃんと準備してあげたいの」

 レオナの笑顔がだんだんとぼやけていく。うれしくて目に涙が浮かんできた。

「あ、ありがとうございます。……うっ」
「レオナさん、……ありがとう」

 泣き出したエリシュカの腰を抱いて、リアンもそう言ってくれた。
 それがまたうれしくて、エリシュカはひとしきり泣いてしまったのだ。
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