没落人生から脱出します!
「お、叔父様。助けて。私、ここから逃げ出したいの!」
『へ? 何事? ああでも、ごめん、魔力がきれそう』

ブツリ、と音を立て、通信は途切れた。

「ちょっと、なんで? 魔力がもっといるってこと?」

 しかし、どれほど魔力を注いでも、先ほどのようには動かず、目の色は赤色に戻ってしまっている。

「……でも、チャンスはあるわ。叔父様は私を覚えていてくれた。商会を尋ねてみよう……!」

 父が毛嫌いしているので、叔父についてはほとんどわからない。けれど、商会名が分かれば、人に聞きながら辿っていけるだろう。

「よし、決めた!」

 屋敷を出るのだ。没落の気配が見え始めてから、エリシュカは自分のことはなるべく自分で出来るようにしてきた。料理人に料理も習ったし、洗濯もできる。生活に関わることならなんとでもなる。
 エリシュカは手早く数枚の着替えと小さなノート、換金できそうな宝石とわずかばかりの金銭を鞄に詰めた。先ほどのネズミも鞄に入れる。

「これでいいわ。あとは置手紙」

 父や母へ、政略結婚には応じられないという内容と、死んだものだと思ってくださいという内容。王都にいる弟たちへは、何の援助もできなくてごめんなさいという文言。
 それでもエリシュカは自分の人生の方が大事だ。父親ほどの男の愛玩人形になるつもりなどない。

 翌日、エリシュカは早朝に家を抜け出した。目立つ銀髪をおさげにして帽子をかぶり、質素な服を着れば、村娘風には見える。

「さよなら、みんな」

 旅立つときは、もっと寂しいだろうと思っていた。けれど、エリシュカは妙な清々しさを感じていた。

< 23 / 244 >

この作品をシェア

pagetop