没落人生から脱出します!


 屋敷引き渡しの日がやって来る。
 馬車が門をくぐり、玄関の前に立っても、出迎えには誰も来ない。
 エリシュカはため息をつき、後ろに続くブレイク、リアン、レッドを招き入れた。

「どうぞ、お入りください」
「私の屋敷に、他人を勝手に入れるな!」

 屋敷の廊下を、キンスキー伯爵がいかり肩で歩いてくる。使用人たちは、叱責を恐れるように、肩をすくめてうつむいていた。

「お父様、この時間に来ると連絡しておいたのに、どうして迎えひとつできないのですか」
「我が子が屋敷に帰って来るだけのことだろう。お前も何を大げさに後ろに三人もつれている。そいつらは帰すんだ」

 エリシュカは眉を寄せ、言い返す。

「リアンは私の婚約者で、叔父様は後見人です。そしてレッド様には護衛をお願いしております。彼らを帰す必要などありません」
「護衛などいらないだろう。私たちがいる。今日からはまた一緒に暮らそう」
「は?」

 何を言っているのだろう。エリシュカは一瞬、頭が真っ白になった。
 送った文書には、居を移してもらうから、準備をしておくようにと記載していたはずだ。

「お父様、お母様は?」
「マクシムとラドミールと居間にいる」
「ではみんなのいるところでお話があります」

 エリシュカはぴしゃりと言い放つ。キンスキー伯爵は眉を寄せ、一瞬口を開いたが、リアンやレッドににらまれて、黙って目をそらした。
 居間の扉を開けると、母親が出迎えてきた。

「あら、エリシュカ、お帰りなさい。待っていたのよ。ほら見て、お菓子も焼いてもらったの」

 マドレーヌが並べられていて、室内にいい匂いが漂っている。妙ににこやかは父と母が話の通じない化け物のように思える。傍で黙りこくっている双子も、さすがに違和感を覚えているのか、両親を怪訝そうに見ている。
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