没落人生から脱出します!

「今すぐ荷物をまとめて出て行ってください。繋ぎとはいえ現伯爵は私です。それができないのなら、別荘の使用許可も取り下げますが、よろしいですか」
「エリシュカ、お前、親になんてことを」
「本気で私をここから追い出すつもり?」

 金切り声を上げて、マドレーヌを投げつけようとする母を留める声は、予想外に彼女の近くから聞こえた。

「母上、もうやめてください!」

マクシムだ。ラドミールは双子の兄を、ただじっと見つめている。

「……もう、やめましょう。父上はいつも言っていたじゃないですか。自分が伯爵なのだから、言うことを聞け、と。今は姉上が伯爵なのです。だとすれば、我々は命令に従う必要があります」

 マクシムが肩を落としながらもそう言う。
 ラドミールは、エリシュカを憎々しげに睨んでいたが、マクシムの言葉を聞いて、目を伏せた。

「父上はどうして、爵位を奪われなきゃならなかったんだ?」

 ラドミールが、エリシュカに問いかける。こうなった原因をなにもわかっていないようだ。

「お父様は、領民の暮らしを守ろうとしなかったのよ。私は何度も言ったわ。贅沢はやめましょうって。でもお父様は最終的に税を上げることで乗り切ろうとした。それで、領地から離れていく領民もいっぱいいたの。近隣の領主から苦情が多く寄せられたそうよ」
「なんだよ、それ」

 ラドミールは父親を睨む。息子たちと娘から責めるように見つめられ、父親はカッとなって反論した。

「なんだその目は! 私はお前たちのために……!」
「その辺でおやめください」

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