没落人生から脱出します!
 リアンに連れられて中に入ると、赤褐色のスーツを着こなした女性が駆け寄ってくる。卵型の輪郭で、明るい金髪がポニーテールに結われている。すっと通った鼻と釣り目のせいで気が強そうに見えるが、美人だ。赤い瞳が珍しい。

「店長、お客様ですか?」
「オーナーに客だ。リーディエ、子ネズミをとってくれ」

 彼女は、エリシュカが持っているあのおもちゃのネズミと似たものを、リアンに渡した。

「オーナーはここにはいないんだ。今連絡をとるから」

 エリシュカにそう前置きすると、リアンはお腹のところにあるダイヤルをカチカチと動かした。魔力が注がれたのか、赤色だったネズミの瞳が、青色に光る。
 しばらくして、ネズミの瞳が緑色になると、叔父の声がした。

『なんだい、リアン』
「オーナーを訪ねてお客様が来ています、名前は……」
「エリシュカよ、叔父様!」

 ふたりの会話にエリシュカは割って入る。突然腕にのしかかられて、リアンは目を丸くした。

「こら、離れろ」
『エリシュカかい? どうしてそこに?』
「叔父様、お願い助けて。私、家出をしてきたの」

 子ネズミの向こうで、叔父が息を吸った音がした。驚かれるのも無理はない。だが、エリシュカも必死だ。ここで叔父に手を離されたら、父から逃げきれる気がしない。

『はぁ? ちょ、ちょっと待って。話を聞きたいけどそこまでの魔力はない。リアン、明日そっちに向かうから、エリシュカを預かってくれないか?』
「は? でも」
『彼女は僕の姪だから。証拠に、子ネズミを持っているはずだよ』
「はあ……あ、切れた」

 昨日と同じく、通信がブツリと切れてしまう。
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