没落人生から脱出します!
 リアンにそう言われ、エリシュカはフリッターを口にする。先ほどは癇癪を起してしまったが、これはこれでおいしい。
 落ち着いてくれば、先ほどまでの自分の行動が恥ずかしく思えてくる。せっかく作ってくれたのに、アリツェにもひどいことを言ってしまった。

「……おいしい。アリツェにありがとうしなきゃ」

 ポソリと言うと、リアンがほほ笑んでエリシュカの頭をなでた。

「母さんは、お嬢が喜んでくれればうれしいはずです」
「食べたら、お礼、言う」

 もしゃもしゃと食らいつくと、リアンの視線を感じた。優しいまなざしだ。エリシュカは恥ずかしくなってきて、フリッターを差したフォークをリアンの口の中に突っ込む。

「もが……。お嬢、これはお嬢の」
「いいの。リアンも食べよう」
「お嬢のおやつをとったら怒られますよ」
「じゃあ命令。一緒に食べて。おいしいものは誰かと食べるからよりおいしくなるのよ?」

 リアンは少し驚いたような顔をしたが、やがて諦めたように笑った。

「たまにお嬢は大人びてますね」
「変?」
「いいえ。おもしろいです」

 褒められているようには思えなかったが、リアンが笑っていたのでエリシュカはそれ以上追及しなかった。

 数日後、リアンはエリシュカが言ったスライサーの絵を描いて、エリシュカに見せた。
 エリシュカは驚いた。こんなの初めてだ。みんな信じてくれなかったのに。信じてくれた人も、話を聞くだけだったのに。リアンはちゃんと絵にしてくれたのだ。

「すごい、リアン。ここは、もっと薄いの。刃があたって、下から切れたものが落ちるように穴が開いていてね」
「こうですか?」

 エリシュカの言葉をヒントに、リアンが何度でも書き直していく。やがてその絵は、エリシュカの記憶にあるのと同じ形にまでなった。

「すごい……!」

 まだ幼いリアンやエリシュカにそれは作れなかったけれど、エリシュカは満足だった。なにより、自分の言うことを疑わず、たとえ絵だとしても目に見える形にしてくれたリアンがすごいと思った。
 それ以来、エリシュカはリアンに懐いた。彼の行くところに、常に後ろからちょこちょこと着いていく。
 リアンといると癇癪をおこさないと気づいた世話係のサビナは、キンスキー伯爵にそれを進言し、リアンをエリシュカ付きの従僕見習いとした。
 こうして、リアンとエリシュカは、べったりと過ごすことになったのだ。
< 4 / 244 >

この作品をシェア

pagetop