没落人生から脱出します!

 エリシュカが昼寝から目覚めたとき、部屋には誰もいなかった。

「お母様? サビナ?」

 眠るときは、サビナがいたはずだ。眠っていると思って別の仕事に行ってしまったのだろう。 エリシュカはベッドから自力で起きると、廊下に出てサビナを捜した。
 広い屋敷は子供にとっては少し怖い。エリシュカが昼寝をしていたからなのか、二階には人けがなかった。小走りで階段の近くまで向かうと、最初に会ったのはリアンだ。

「あれ、お嬢。もう起きちゃったんですか?」

 洗濯済みのシーツを抱えている。リアンは使用人の子供で、正式に雇用されているわけではないが、他の使用人の手伝いをしていることが多い。

「うん。……お母様は?」

 目をこすりながら言うと、リアンはほほ笑み、少しだけ屈んで、エリシュカと目線を合わせた。

「先ほどまで、坊ちゃま方とお庭におられましたけれど、静かになりましたしね。……探すならご一緒します。これ、片付けてきますから待っていてくださいね」
「うん」

 リアンがパタパタとリネン室に向かって廊下を駆けていく。すぐに戻ってきてくれると信じて、エリシュカは彼の後ろ姿を見送った。

(マクシムとラドミール。お母様に遊んでもらっていたのか)

 エリシュカの二歳年下の弟は双子で、キンスキー夫人は彼らを溺愛している。子供と散歩したり、勉強を見てくれたりと、子育てには関心のあるキンスキー夫人だが、エリシュカに対する態度は双子に向けるものとは少し違っていた。
 だから、エリシュカは時折無性に寂しくなる。

「……なのよ」
「まあ奥様ったら」

 サビナの声が聞こえて、エリシュカは声のする方に足を向けた。声は階段の下からする。

「寝かせてまいりましたわ」
「お坊ちゃまたちはお疲れになったようですね」
「ええ。そうね。無邪気でかわいいこと」

 階段の下で、母とサビナと双子の世話係が話している。
 エリシュカが二階から声をかけようと口を開いたタイミングで、「でもエリシュカには困ったものだわ」という母の声が聞こえ、冷水をかけられたような気持ちになった。
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