没落人生から脱出します!
「恋人同士なんですか?」
「いや? リアンには全然その気がないと思うよ。彼、魔道具を作ること以外はあまり関心が無いからね。むしろ、エリシュカの世話をかいがいしくしていることに驚いたんだけど」

 エリシュカは苦笑した。彼はエリシュカのことを『お嬢』と呼ぶ。昔の記憶がきっとそうさせるのだろう。もうお嬢様でもないのだから、その扱いはなんとなく居心地が悪い。

「……私が記憶を無くす前に、お世話係をしてくれていたそうです。言われても、思い出せなかったんですけど」

 自然と語尾がすぼんでしまったエリシュカに、ブレイクは優しく微笑みかける。

「思い出せないのを、気にしているのかい? 池に落ちて頭を打ったんだろう? 仕方ないじゃないか。君のせいじゃない」

 ブレイクにあっけらかんと言われ、少しだけ気持ちが軽くなる。けれど、うっかり転んで池に落ちたのなら、やはりそれは自分のせいだと思うのだ。

「それより、まさかリアンがキンスキー家にいたとは思わなかったな。まあ僕は、寄宿舎に入った十五のときから、数回しか帰っていないから、もしいたとしてもきっとわからなかっただろうけどね」
「叔父様とリアンさんはいつ出会ったんですか?」
「リアンと最初に会ったのは、彼が十五歳のときだね。別の街で開いていた魔道具商会に、働きたいと言ってやってきたんだ。すでにものづくりの基礎はできていたし、君みたいな破天荒なアイデアを持ってたからね。僕は喜んで彼を雇用した。一年後にこの店を開いたときも、迷いなく彼に任せようって思ったよ」

 ブレイクは、その時のことを、身振りを交えて教えてくれた。

 ブレイクは王都の学校を十八歳で卒業した後、とある港町を訪れた。そこで交易の真似事をしているうちに収益を上げるようになり、一年後にはそれを生業にしていた。最初は買って売るだけの交易だったが、やがて買いつけたものを加工し、魔法による付随効果をつけて高く売る魔道具商会を開いたのだ。
 とはいえ、当時はほかの魔道具商会の真似事のようなものだ。魔力を通すことにより点灯するランプや、魔力を与えると音を出すおもちゃなど、ありふれた商品ばかりだった。ブレイクの魔道具商会が爆発的にヒットしたのは、エリシュカの話をヒントに作った、魔道具の調理具のおかげだ。
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