没落人生から脱出します!
 その後ろ姿を見ながら、ヴィクトルは茶化すように言った。

「八つ当たりはよくないよ。リーディエ」
「ヴィクトルさん、人聞きの悪いこと言わないでよ」
「だってさ。今までの君なら、気づいた時点で、自分で拭くでしょう」

彼の指摘は正しく、リーディエは唇を噛みしめる。

「……ヴィクトルさんだって貴族なんて嫌いでしょう?」
「そうだけどさ。エリシュカが悪いわけじゃないじゃんか。彼女もある意味被害者だ。それに、オーナーの姪に嫌われていいことなんて何もないし?」

 最後のひと言には含みがあるが、従業員としては正しい発想かもしれない。
 ふたりが話しているうちにエリシュカが戻ってきて、大して汚れてもいない棚を一生懸命拭き始める。

「……嫌味も通じないのね」
「素直に育ってるんだろ。俺たちとは違う。それに魔道具に関しては俺たちなんかより格段に役に立ってる。やっぱさ、学の違いはどうしようもないだろ。あのリアンだって、エリシュカには優しいじゃん」
「それは……」

 リーディエはそう言うと、寂しそうにリアンを見やる。リアンが時折、心配そうにエリシュカに視線を送るのを、彼女は何度も見てきた。

「店長が苦労したのは、あの子の親のせいでしょ。貴族なら貴族で、自分の居場所にずっといればいいのに。何も知らないで、ずかずか入って来てほしくなかったわ」

 リーディエのやりきれなさを慮ったのか、ヴィクトルは苦笑したまま、彼女の背中をポンと叩いた。
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