没落人生から脱出します!
 母は、彼らがくれたお金で生きてこれたのだから感謝しろというけれど、リーディエには納得ができなかった。

「リーディエ、お前、ブレイク様のお店で働かせていただきなさい?」

 商家であるセナフル家の下働きをしていた母が、リーディエが就職口を捜していたとき、そう言った。セナフル家の婿であるブレイクが店を出し、ちょうど売り子を捜しているのだという。ブレイクは私生児だからと気にすることのない良い方だからと。
 実際、この店に来てみれば居心地はよかった。
 ブレイクは、どこかの伯爵家の出身だそうだが心優しいし、一緒に働くヴィクトルもリアンも気やすかった。
 一緒に過ごす時間が長くなると、ふたりの事情も見えてくる。ふたりとも、貴族には何らかの思うところがあり、そこも同志だと思える理由だった。

(仲間だと思ってた。貴族なんて嫌いだって、みんなそうだって思ってたのに)

 ブレイクの姪とはいえ、ふたりがあっさりとエリシュカを認めた事は、ショックだった。

(しかも、キンスキー伯爵家の令嬢だなんて)

 キンスキー伯爵家は、リアンがかつて追い出され、窮地に追い込まれた元凶だと、リーディエは知っていた。だからこそ、リアンがこんなにもエリシュカにかいがいしさを見せることが信じられない。
 それに、エリシュカのことも見ているとイライラする。貴族のお嬢様として育ち、教養を身につけさせてもらえたならば、多少嫌われていたとしたも恵まれているほうではないか。たしかに父親のような年齢の男との政略結婚は嫌だろうが、だからといって逃げる先が叔父の元というのが甘いとリーディエには思えてしまう。

(ひとりで生きる覚悟がないなら、政略結婚だって甘んじて受けるべきじゃないの)

 口に出しては言えないが、そんなふうに思うこともある。
 自分が得られなかった貴族令嬢という立場。それを捨ててきたことにも苛立つし、捨ててもなお、叔父やリアンに守られる彼女が羨ましくて憎らしい。

『素直に育っているんだろ。俺たちとは違う』

 ヴィクトルの言葉は真実だ。エリシュカは素直で天真爛漫だ。
 彼女は自分のように、父親から捨てられたことを気にしたりしていない。彼女は自分から捨ててきたのだから。
 エリシュカが悪いわけではないのはわかっている。けれど、リーディエはどうしてもエリシュカを受け入れられなかった。

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