かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました


「そんなこと気にしてたのか。店の前で待ち合わせしたときから様子がおかしいとは思ってたけど……まさかだったな。朝はあんなに威勢がよかったのに」
「……時間が空いたら色々と考えちゃったんです。あるでしょ、そういうこと」

おかしそうに笑われているのが不満で口を尖らせた私に、桐島さんは「ごめん」と謝る。

「バカにしたわけじゃないよ。ただ可愛いなと思っただけ」
「……は?」
「午前中、俺のことを色々考えてくれてたんだなって思ったら、嬉しくて堪らなくなった」

聞き間違いかな、と思った。
今、桐島さんが言った言葉が恋人同士がするような甘い会話に思えたから。

あまりにサラッと言われしばらく呆然としていたけれど、そういえば初めてうちに訪ねてきたときもこんな感じだったなと思い出す。

今はオフィスモードが抜けているからこんな態度なのかもしれない。だとしたら、いちいち反応するのもおかしい。

それにしても、これが桐島さんの素なのだとしたら厄介だ。
会社関係ではない女性に対して全員にこんな極上の微笑みで甘ったるい言葉を告げているなら……そして相手の女性がその気になったなら、絶対的に非は桐島さんにある。

私相手にこんな感じなのだから、もっと気心が知れた相手ならドロッドロに溶けそうな態度をとっているんじゃないだろうか……と考え、なぜか、本当になぜか少し面白くない気持ちになっていた時、桐島さんが言う。

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