かりそめの関係でしたが、独占欲強めな彼の愛妻に指名されました
「川田のお父さんは内科勤務で、うちの父親は副医院長だった。たぶん、川田が家で俺の話題を出したんだと思うけど、その日の夜に川田のお父さんからうちの父親に電話が入った。内容は〝子供がいつもお世話になってる〟っていう挨拶と〝今度食事でも〟っていう社交辞令だった」
「川田さんのお父さんは、なんていうか……結構向上心のある方なんですね」
子供同士が同じクラスだからと言って、それを知った日にわざわざ電話をかけるのはおおげさに感じて言う。
院内で顔を合わせたときでもよさそうなものなのに、と思うのは私が大学病院の内情をよく知らないからだろうか。
桐島さんは「相沢さんの思ってる通りだよ」と苦笑いを浮かべた。
「取り入るって言葉は大げさかもしれないけど、そういう考えがあったんだと思う。その日からやけに話しかけてくるようになったって父親も困惑していたから。川田のお父さんからしたら、せっかくできた繋がりをどうにか生かそうとしてたんだろうけど……行き過ぎてる部分は否めなかった」
ガヤガヤと他の席からの声が雑音として聞こえる店内。
薄暗い照明のなか、桐島さんが続ける。
「結局、川田のお父さんが〝子供同士を結婚させよう〟だとか言いだしたのをきっかけに、父親は距離を置くようになった。〝野心があるのはいい、でもそういう方法を一番に言ってくるのは医者としてどうかと思う〟っていうような話をしたら、それ以降必要以上に話しかけてくることはなくなったらしい」
「桐島さんのお父さんは、とても立派な方なんですね」
感心して呟いた私に、桐島さんが笑う。